足音
高い窓から射し込む光に起こされました。体は冷えきって、あちこちがぎしぎしと音を立てるようでした。喉の奥だけがとげとげしい熱を持っていました。日差しを避けようと、横になったままで這うように動きました。
耳元で鋭く石が鳴り、びくりと頭を持ち上げました。それは床を伝って聞こえてくる足音でした。
「起きてんのか? 飯だ」
痺れた腕で苦労して起き上がりました。じゃらり、と鎖が音を立てました。見ると格子の隙間から皿が入れられていました。パンとスープのようなものだったと思いますが、なぜかそれが食べ物だとは思えず、私はただぼうっとしていました。
「とっとと食えよ」
私は一度唾を飲み込んで口を開きました。
「ロザリーさまは……?」
かすれた声が出てきました。私が言葉を発したことに彼はぎょっとした顔をしました。そしてそのままどこかへ行ってしまいました。
始めに目覚めた時と同じように、足音は増えて戻ってきました。
私は彼らの姿が見えるよりも早く、ロザリー様のことをお尋ねしていました。
「ロザリー様は? ロザリー様はどこにいらっしゃるのですか? ロザリー様、お会いしとうございます、ロザリー様……」
目の前に立つ中でいちばん年長に見える男が口を開きました。
「いいか、よく聞け」
私は唇を半ば開いたまま次の言葉を待ちました。
「これから聞くことに、お前が素直に答えてくれりゃあ、会わせてやるよ。お前のその、大事な大事なご主人様にな」
彼の傍らの人間が驚きの声を上げました。彼は「黙ってろ!」と彼らを一喝しました。にやりとした笑みが私に向けられました。
「わかったな?」
「はい……!」
私は愚かにも、その言葉に喜んでしまいました。
檻の外の人間がまた2人増えました。彼らのうちのひとりが私に様々なことを尋ね、もうひとりが私の発した一言一言を書き留めました。彼らは他の者よりも身分が高いようで、へつらわれている様子が見てとれました。
何度も何度も質問が繰り返されました。そのほとんどは森の外での出来事についてで、私には答えることができませんでした。
先ほどの年長の男が声を荒げました。
「とぼけんじゃねえぞ、この魔女が!」
蹴られた鉄格子のけたたましい音に、私は怯みました。
「でも……、本当に知らないのです。私はずっとお屋敷におりましたから……」
「落ち着け。……おい、これも書いておけよ」
私に質問をしている男が彼を押し止め、記録係に言いました。それからはぼそぼそとした口調で質問が続けられました。
私は声を掠れさせ、時折咳をしながらもそれに答えました。思うのはロザリー様のことばかりでした。
「……以上だ」
その言葉を最後に記録係が書き付けを閉じました。喉はすっかり渇ききっていましたが、私は顔を上げて頼みました。
「それでは、ロザリー様に会わせていただけるのですね? 約束しましたもの。早く、お願いいたします」
質問をしていた男は「何を言って……」と言いかけました。それを「まあまあ。気にするようなことじゃねえですよ」と遮って、年長の男は彼と記録係の2人を帰しました。