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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
XIII 白日
181/213

獄中

 喉の奥に焼ける痛みを感じました。目を開けましたが、ものを見ることを体が拒んでいたのか、世界はぼんやりと灰色でした。頭の右側が痺れています。固いものに右半身が押し付けられているようでした。身じろぎをすると金属が耳障りに鳴りました。


 私は石の床に転がされていました。

 ロザリー様、とお呼びしたつもりでしたが、出てきたのは掠れた吐息だけでした。四肢の骨が外れてしまったような違和感がありました。頭もずきずきと痛みます。

 それでも起き上がろうと右手を床につこうとすると、左手と首が引っぱられました。まばたきをして視線を下ろし、両手に重い木の枷がはめられているのを見てとりました。枷からは鎖が伸びていました。きっと首につながっているのだとわかりました。


 身をよじってなんとか身を起こしました。血の気が引くようなめまいに固く目を瞑りました。

「やっと起きたか、魔女」

 突然の声にそちらを振り向きました。頭を急に動かすと痛みが走り、視線を先に走らせて、静かに顔を向けました。

 ぎいぎいと粗末な椅子を鳴らしながら男性がひとり座っていました。太い鉄の格子が私と彼とを隔てていました。

「ここは……」と尋ねようとしましたが、やはり声は出ませんでした。


 彼は立ち上がって格子に近づきました。腰をかがめて私の顔をまじまじと見ます。

「ふうん、普通の女のツラしてやがる」

 その声には幾分か落胆が滲んでいました。私はものを言えない口を動かしました。

「ああ? 聞こえねえよ――」

 彼はそう言って私に顔を近づけかけ、弾かれたように後ずさりました。

「あぶねえ、その手には乗るかっての」

 強気な言葉でしたが、彼の表情には確かに怯えが見えました。私はどういうことかわからず、彼の姿を見ていました。彼は一度苦々しい舌打ちをするとその場を立ち去りました。


 辺りを見渡し、ようやくここが牢獄であることを理解しました。目覚めて最初に見た灰色のものは、ごつごつとした石の壁でした。

 辺りを見渡してロザリー様がいらっしゃらないか探しました。

 きっとこの時から私は錯乱していたのでしょう。囚われる前に見たものも思い出せずに、迷子のようにロザリー様のお姿を求めていました。


 あの男性が去ってしまい、動くものは私ひとりだけでした。

 ロザリー様のお名前を呼ぼうと喉を動かし続けました。掠れた空気の音が漏れるだけでした。


 やがて、何人かの足音が固い床を鳴らしてやって来ました。彼らが何かを言い交わす声が壁に反響しました。その足は私のいる格子の前で止まりました。

 彼らは再び口々に話し出しました。その中には私への問いかけもありました。私は何度か唇を弱々しく動かし、その後はひたすら首を横に振っていました。

 舌打ちやため息を残して、彼らもまた私の前からいなくなりました。

 なんだかぐったりとしてしまって固い床に横たわりました。

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