蹂躙
次に変化があったのは蕪の収穫の頃でした。その時のことは、今でも思い出すと胸が締め付けられるようです。
「イラ……」
私にとっての始まりは、ある朝のロザリー様のその沈んだ一言でした。
「どうかなさいましたか、ロザリー様」
「君は今朝……、いや、まだ知らないようだね。私の口から言うべきか……」
歯切れの悪いご様子に不安が募りました。
「ロザリー様、どうなさったのですか。何か、困ったことでも……?」
ロザリー様はなおもためらっていらっしゃいました。
「……イラ、いきなり目の当たりにしてしまうよりは、ここで前もって知っておいた方がいいのかもしれない」
言葉を慎重に探されて、ロザリー様はゆっくりと話し出されました。
「落ち着いて聞いてくれ。まず、今日は日が沈むまで外には出ない方がいい」
「なぜですか、ロザリー様? 今日もよく晴れそうですし、蕪もちょうど……」
畑のことを話題に出した途端、ロザリー様の表情が強張りました。夜のうちに畑に何かがあったのだと直感しました。
「……畑を見に行くのは、日が沈んでからにしよう。私が付き添っているから気をしっかり持つんだよ」
「ロザリー様、一体何があったのですか」
ほとんど問い質すような厳しい口調になってしまいました。ロザリー様は畑の方向をちらりと見やり、重い口を開かれました。
「君の……。君の畑が、荒らされていた」
卑劣な仕業だ、とロザリー様は続けて吐き捨てるようにおっしゃいました。
私はそれがどういうことなのか、お話をうかがうだけでは上手く掴むことができませんでした。
すっかり辺りが暗くなり、ロザリー様と私は畑へ出ました。
「イラ、……落ち着いて」
ロザリー様は私の肩をしっかりと支えてくださいました。私は胸の内を冷たくしながら畑を見ました。
変わり果てたその様子に思わず自分の目を疑いました。
きれいに並べて植えていたはずの蕪が残らず姿を消しています。ちぎれた葉や白い根のかけらが打ち捨てられ、土にまみれていました。ロザリー様が耕してくださった畝も蹴散らされていました。
いくつもの靴跡が畑の上に残っていました。執拗に踏み荒らされた跡はまざまざと悪意を見せつけるようでした。
「……すまない。夜が明けるまでのうちに、できる限り片付けてはみたのだけれど……」
私が意味を理解するよりも早く、そのお言葉は耳を通り過ぎました。
上手く息が吸えず、私は唇をわななかせました。
「なぜ……」
やっと出てきた言葉は空虚に消えていきました。