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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
XIII 白日
172/213

小さな畑

 それからは元の通りに静かで穏やかな日々が続きました。年月は巡り、お屋敷のライラックは少しずつ枝を伸ばしていきました。

 あれほどたくさんあった書物も一通り読んでしまい、ロザリー様はまた新しく書物を買ってくださいました。

「そろそろ屋敷の床が抜けてしまいかねないな」

 書物が届いたときにロザリー様は笑ってそうおっしゃいました。けれども確かに、お屋敷はだいぶ古びてきていました。

 ロザリー様はお屋敷の修繕のために大工を呼ばれました。幾月か経って修繕が終わると、お屋敷はすきま風も入り込まなくなって、ぐっと暮らしやすくなりました。


 お屋敷の畑から野菜や花が安定して採れるようになったこともあり、お屋敷へ届けられる食べ物の質が再び低下してきていることに私はなかなか気付けませんでした。

 やっと異変に気付いた時には、森の外の畑からの収穫は非常に乏しいものとなっていました。

「君の畑はいつもと変わりないようなのに、どうしたのだろうね」

 ロザリー様と私は首をひねりました。

 後で歴史書を読んで知ったことですが、不作の原因は、手間がかからず短期間で収穫できる作物を作り続けたことだったそうです。土地が痩せていたのに加えて土の病気が発生し、同じ作物を広範囲で作っていたのが仇になったとのことでした。畑一帯が丸ごとだめになってしまい、被害は当時の私の実感よりも遥かに大きなものであったそうです。


「もしも食物が不足するようなことがあれば、君がまずしっかりと食事をとるのだよ」

 ロザリー様は私にそう念を押されました。

 私はそれから、花よりも野菜を多めに育てるようになりました。畑仕事に慣れてきていたということもあり、以前に派兵の影響で食物が届かなくなったときと比べると、少しは余裕のある暮らしができました。

 今思い返せば、年ごとに違う土を使うのを知っていたこと、ほとんど純粋な興味から違う野菜を色々と作ってみていたこと、疫病が伝わるほどの近くにほかの畑がなかったことなど、様々な幸運が重なり合ってこの時のお屋敷の実りはもたらされていたのでした。


「イラ、最近この近くに人が立ち入ったようだ」

 ロザリー様がある日の夕食の席でおっしゃいました。

「まあ……。あの時のような子供でしょうか」

「いや。足跡からすると大人に見えたな」

 言いようのない不安に胸が曇りました。

「まだ何とも言えないけれど、気を付けておいで」

「はい、ロザリー様」

 私は畑仕事をしながらも耳をそばだてていましたが、変わったことは感じられませんでした。

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