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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
III 仕立屋
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眠りと夢のお話

 しばらく馬車に揺られ、ふと私はロザリー様にうかがいました。

「ロザリー様、到着までお休みになりますか?」

「いや、その必要はないよ。着くまで話をしていよう」

「かしこまりました。……お疲れにならなければよいのですが」

 ロザリー様は軽くお顔を上げられました。

「ああ、気遣ってくれたのだね、ありがとう。ただ、私が眠るのは体を休めるためではなく、太陽を防ぐためなんだ。眠らなかったところでどうということはないさ」

 私は少しばかり驚きました。そして身勝手な思いですが、それならばお屋敷でも起きていてくだされば、昼間に寂しい思いをしなくて済むのに、と考えてしまいました。


 ロザリー様はそうした私の気持ちを知ってか知らずか、お話を続けられました。

「もちろん屋敷でも起きていようと思えば起きていられるのだけれどね。窓やカーテンは全て閉め切らなければならないし、そうすると君の体に悪いだろう。それと、これだけ長い間生きてきて、今さら夜も昼もあくせく動く必要もないかと思ってね。昼は潔く寝ることにしている」

「ロザリー様……」

「なんだい?」

「私がロザリー様と共にいられる時間はほんのわずかですのに、それでも起きていてはくださらないのですか」という言葉が喉元まで出かかりましたが、すんでのところで押し止められました。


 代わりに、「ロザリー様は、夢を見ることはございますか」とお尋ねしました。

「夢か……。ああ、見るよ。昔の出来事を見ることが多いかな」

「昔の……?」

 ロザリー様のおっしゃる「昔」がどの程度古いことなのかはわかりませんでしたが、おそらく私の想像も及ばないほどの「昔」も含まれているのだろうということは、そのお話しようから感じ取ることができました。


「……イラは昨夜、夢を見たかい?」

「私、でございますか? そうですね……」

 私は一生懸命、曖昧な夢の印象をたぐりました。

「歌……、が聞こえました。白い花がたくさん咲いていて。……ああ、その歌は花たちが歌っていたのです」

「なるほど。君らしく、明るく美しい夢だ」

「蕾や、疲れてしおれてしまった花もあって……、ロザリー様がそれらを咲かせていらっしゃいました」

「私がかい?」

「はい。ロザリー様が香水を吹き付けると、白い花が薄く色づいて良い香りが広がって、生き生きと歌うようになるのです」

「イラの夢の中でそのような大役を務めさせてもらえたことを光栄に思うよ。ところで、イラもそこにいたのかな」

 私は少し考えました。

「私は……、はっきりと何をしていた、とはわからないのです。けれども花の気持ちがそのまま感じ取れましたので、もしかしたら花となって歌っていたのかもしれません」

「そうか、それならきっと美しい花だったのだろうね」

 そのお言葉に顔が火照り、それきり夢の話はおしまいにしてしまいました。


 なんということもないお話を続けていると、馬車の進む速度が落ち、やがて止まりました。

 ロザリー様が先に馬車を降り、私に手を貸してくださいました。

「少し、そこで待っておいで」

 ロザリー様は御者に小さな包みを手渡されたようでした。御者がロザリー様と私を、好奇の目で見比べるようにするのが、なんとなく気にかかりました。

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