夜の誓い
沈黙の中で私はロザリー様にお聞かせする言葉を探しました。
「ロザリー様、私は……、ロザリー様と共に夜を過ごせるようになるのならば、喜んでこの変化を受け入れましょう」
私を見るロザリー様の目が揺らぎ、再び私へ注がれました。たっぷりと静けさが下りた後で、ロザリー様はただ一度私の名をお呼びになりました。その響きは温かく、私の胸をいっぱいにしました。
「それならば私は、どれほど暗い闇夜の中でも君という光を抱き守ろう。今度こそ君の唇に誓わせておくれ」
白い指先が私の顎に添えられました。ロザリー様が腰を上げられると、椅子が小さく鳴りました。
ひんやりとした唇が右頬と左頬に一度ずつ触れました。
ロザリー様は私の目を正面から見つめられました。心臓がいくつもの熱いかけらになって、体の至る所で鳴り響くようでした。
「イラ……、目を閉じて」
ロザリー様のお言葉に従うと、自分のまぶたが震えているのがわかりました。今思えば、まぶただけでなく全身が震えていたのでしょう。
心臓の音をいくつ数えたかもわかりません。温度のない吐息を肌に感じ、唇にひんやりとした柔らかさが押し当てられました。
ロザリー様の唇がわずかに動かされるたびに、私はその冷たさを改めて感じました。体温がロザリー様に伝わりきらないうちに唇が離されました。小さく立てられた音が耳をくすぐりました。
恥ずかしさのあまり目を瞑ったままでいると、ロザリー様の指先がそっと私のまぶたを撫でられました。
私を呼ぶお声に促されて、私はゆっくりと目を開けました。
ロザリー様は静かな笑みを浮かべていらっしゃいました。その表情を見たとたんに自然と涙が溢れました。
「イラ……!」
ロザリー様がたじろがれます。
「イラ、すまない、君の許しも得ないままにこのような……」
私は泣きながら首を横に振りました。
「ロザリー様、違います、ロザリー様、私は……、私は、嬉しいのです……!」
ロザリー様は息を呑まれて、もう一度「イラ……」と私の名前をつぶやかれました。
ロザリー様の肩に頭を預けて私はすすり泣いていました。胸の奥から温かい涙が泉のようにこんこんと湧き出ました。
ロザリー様はわずかにぎこちない手つきで私の髪を撫でてくださいました。
次第に息の震えが穏やかになってきて、私は背筋を伸ばして顔を拭いました。
「申し訳ありません、お召し物を濡らしてしまって……」
「気にすることはない。……気持ちは落ち着いたかな」
「ええ……」
そうお答えしながらも改めて顔が熱くなっていくのが感じられました。
「イラ、耳まで赤くなっているね」
絹のような優しさでそうおっしゃるロザリー様は、顔色ひとつ変えられてはいないようでした。
「……ロザリー様はいつもとお変わりないようでございます」
私はほんのわずかな不満を滲ませて申し上げました。
ロザリー様はご自身の頬に触れられて、「人間の肌を持っていれば、私だって君に負けず劣らず顔を赤らめているところさ」とお答えになりました。
それから私が信じられない思いでいるのを見透かしたように、「本当だよ」と付け加えられました。
さて、結論から書いてしまうと、私が魔の者の性質を手に入れることはありませんでした。
その晩、私は純銀のダガーを取り出し、布できれいに磨いていました。それは眠る前の日課として、まったくの無意識のうちに行われていました。ダガーを鞘に納め、引き出しにしまい入れたところではっと気がつきました。
さらに夜が明けて朝の光を浴びても、体に変化はありませんでした。日々のお料理や畑仕事でうっかり傷を作ってしまうこともありましたが、それらがすっかり消えるまでにはやはり数日を要しました。
あの晩に私の傷や日焼け、そばかすが消えたことについて、ロザリー様と私は何度も話し合いました。
長い時間をかけて至った結論は、私の体はロザリー様の血を頂くことで、時間を遡るように、最初に永い命を得た時の状態にまで変化するのではないかというものでした。
「私の外見は、初めて人間の血を飲んだ晩の状態で止まっているんだ」とロザリー様は教えてくださいました。
「もしかしたら、君の体にも同じようなことが起きているのかもしれないな」
さらに何度かロザリー様から血を頂き、また次第にわかりだしたことがありました。おそらくは暮らしの中で私の体に変化があるほど――あるいはもしかすると、体に日光を浴びるほど――ロザリー様の血を頂いた後の眠りは深くなるようなのです。
ロザリー様は私がまだ人間として昼の世界で暮らしていけることに安堵なさっていました。
「それならばイラ、これからもこの屋敷に太陽の香りを持ち帰ってきておくれ」
「はい、ロザリー様」
そうはお答えしたものの、私は土いじりのときには相変わらず帽子や頭巾、その後の軟膏を欠かしませんでした。
日に当たればロザリー様の血を頂くときの苦痛が大きくなりかねないという理由もありましたが、それよりも大きかったのは、もうひと時たりともそばかすを頬に作りたくなどないという切実な思いでした。