対の約束
今度は私が嵐のような思いを打ち明ける番でした。
「今回のことにしても、ロザリー様は、私を守ってくださったのではありませんか」
怒りと悲しみの言葉は、答えを許さない問いの形をとりました。
「なぜお一人で罰を受けようとなさるのですか。それに、まだロザリー様が、その……、処刑されると決まったわけではございません。ロザリー様がこのお屋敷を去るとおっしゃるならば、私は共に参りましょう。けれども、今のうちからそのような恐ろしいことをおっしゃって、お一人で暗闇へ足を進められるようなことはなさらないでください。ロザリー様、お願いでございます」
お願いです……、と重ねて申し上げて、私は手で顔を覆いました。ロザリー様は吐息だけで私の名をお呼びになりました。
「イラ……、私が悪かった。君の思いを踏みにじるようなことを言ってしまって……」
うなずきたいのか否定したいのか自分でもわからないままに、私は首を動かしました。
「それならば私は、君を守り、君と生きよう。君のために全てを捧げると、君に誓おう」
顔を上げておくれ、とロザリー様はおっしゃいました。涙に濡れた顔をお見せすることを恥ずかしく思いましたが、私は手で顔を拭い、なおぼやける視界でロザリー様のお顔を見上げました。
ロザリー様はまっすぐに私をご覧になり、白い指先を伸ばされました。
「どうして……」
唇が勝手に動いたようでした。ロザリー様は驚いたように動きを止めて瞬きをなさいました。
「どうしてロザリー様は、そこまで私を大切にしてくださるのですか? ……自惚れかもしれませんが、ロザリー様は私を守るという目的のためならば、何を犠牲になさることも厭われないようでございます」
「そうだね……」
ロザリー様は伸ばしかけた指をご自分の顎に添えて、しばし言葉をお探しでした。
「君は、太陽と花の香りがするから……。闇に囚われる私に光を与えてくれるから……。手放したくないと思ってしまう。……すまない、どうにも上手く言えないな。ただ、君の言うとおり、君が私にとって何物にも代え難い存在であることは本当だよ。イラ、私がまたこのように不安に襲われるようなことがあれば、叱って光を指し示しておくれ」
涙が乾きそうに思えるほどに、瞬時に顔が熱くなりました。ロザリー様のお顔を見ていられなくなって目を伏せると、開かれたままの本のページに涙のしみがぽつぽつと斑点模様を作っていました。
「イラ、次に王が替わるまではこの国に留まるという約束を果たすことができなくなるかもしれないことを、申し訳なく思うよ」
「……ええ、ロザリー様」
アリスからの伝言を届けられなくなってしまうのは、私にとっても心苦しいものでした。けれども、ロザリー様が危険に晒されるのはそれ以上に耐えがたく思えました。
ロザリー様は「……君の決意は受け取ったけれど、念のためにこのことも確認しておこう」とおっしゃいました。
「もしも打つ手がなくなり、私が死ぬほかにないような状況に追い込まれた時は……、せめて君だけは生きておくれ。いいね」
ロザリー様から血を頂く際にいつも告げられていたお言葉ではありましたが、この晩は特に重く響きました。
「……はい、ロザリー様。承知しております」
「君は、生きて……、歌を集め、歌い継ぐのだったね」
「ええ」
ロザリー様はご自身のお言葉をかみしめるように頷かれました。
「わかってくれているのなら良いんだ」
「ロザリー様、お約束いたします。私はロザリー様のことを、ロザリー様が私に下さった全てのものを、永遠に覚えております」
「……ありがとう、イラ」
私の方からも、「ロザリー様は、私が先に死んでしまったとしても、私のことをずっと覚えていてくださいますか?」とお尋ねしました。ロザリー様は「ああ、もちろんさ」とほほえんでくださいました。