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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
XI 離反
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古き存在

 ロザリー様は王から投げかけられた金属的な声に短くお返事をなさり、顔を上げられました。

「それでは申し上げます、陛下。既にお伝えしたことではございますが、私は自分の行いが間違っていたとは露とも思っておりません」

「なに?」

 ぴくりと王の眉が上がりました。

「彼らは王国兵と呼ぶにはあまりにも野蛮なことをしでかしました。今回の件がなければ、再び近いうちに蛮行を働き、陛下の名誉までをも傷付ける結果となっていたことでしょう」

「あの者たちが卑しい出であることは余も認めている。ただ、今の情勢を知らぬわけではなかろう。兎にも角にも兵士が必要なのだ」

 王はそこで言葉を切りました。


「……12名であったか」

「はい、陛下」

 落ち着き払ってロザリー様がお答えすると、王は顔を歪めました。

「12名の小隊が、戻ってきた時にはたったの1名だ。しかもその1名ももう兵士としては使い物になるまい。物音にも暗闇にも脅える始末だ」

「お言葉ですが、陛下。私が11名全てに手を下したわけでも、その者を脅かしたわけでもございません。亡霊についてはお聞き及びのことと存じますが」

「その亡霊とやらがお前の差し金で動いていないと、何故そう言いきれる」

「そんな……!」

 私は思わず声をあげていました。ロザリー様は私の前に手をかざして私を押し止められました。口をつぐみましたが、胸の奥では煮え立つ怒りが小さなあぶくを立てていました。


 王は私をちらりと見て再びロザリー様に目を戻しました。

「祖父はずいぶんとそなたを買っていたようだが、余にはそなたがただ胡散臭い存在にしか見えぬ」

「言われ慣れております、陛下」

 私は歯を食いしばりましたが、ロザリー様は涼しい顔を崩されませんでした。それどころか最後の「陛下」というお言葉には若干の揶揄さえ込められているようでした。

「他国は火薬と鉄とで国力を拡大しているというのに、我が国は吸血鬼だの亡霊だの、古き因習にとらわれるばかりだ」

「それがこの土地の宿命でございます。……話を戻しましょう。彼らと私の沙汰についてでございますか」

「そなたの、だ。先ほども言ったが、あの者達は沙汰を受けられるような状況にない」

 かしこまりました、とロザリー様は再びお辞儀をなさいました。


 王が深くため息をつくのが聞こえました。

「我が巡邏兵に非があり、そなたの行為の理由がただ領地を侵されたに留まらないことは理解している。他に何か、言うことはあるか」

 ロザリー様は静かに話し出されました。

「はい。あの森は……、特に月の出る晩には魔の者がうろつき危険でございます。今回の件がなかったとしても、生きて森を出られた者はごく少数であったことでしょう。今後はできる限り森から人間を遠ざけていただきたく存じます」

「それがそなたの望みなのだな」

「はい、陛下」

 その心のうちはわかりませんでしたが、王は一度頷きました。

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