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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
XI 離反
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謁見

 ロザリー様が頼んでくださった書物などが届く前に、王城へ向かう日がやってきました。

 馬車が王城に着いたのは夜更けで、ロザリー様と私はすぐに客間へ通されました。以前私が王城を訪れた、先代の王の戴冠式の記憶と比べると、ずいぶんと灯りも人も少ないように思いました。

 馬車に揺られた疲れが出たのか、私は案内されたベッドですぐに眠り込んでしまいました。


 翌日も太陽が出ているうちは閉め切った部屋の中でロザリー様とゆっくりとお話をしていました。

「以前と比べると、ここもずいぶんと静かになってしまったようでございますね」

 ロザリー様は私の言葉に少し笑みを浮かべられました。

「あの時は戴冠式だったから、数十年に一度の賑やかさだったことと思うよ。それを抜きにしても、やはり使用人も減っているようだ」

「王城までもこのように寂しくなってしまうなんて……。やはり今は厳しい時代なのですね」

「なるほど、そういう考え方もできるかな」

 そのお言葉に私は首をかしげ、「ロザリー様は違うお考えをお持ちなのですか?」とお訊きしました。

「ああ。私はこの様子を見て、むしろ当代の国王を少し見直したよ」

 疑問がさらに深まって、私はロザリー様の続きのお言葉を待ちました。

「民に苦労を強いて自分だけ贅沢な暮らしを享受しようなどという魂胆が見えれば、文句のひとつでも言ってやったかもしれないけれどね。自ら進んで質素な暮らしを送っているようだし、彼には彼なりの道理がきちんとあるのだろう」

 私はそのお言葉にほうっと頷きました。

「それならば、こちらも理を尽くして話せば悪いようにはならないと期待するよ」

 ロザリー様は私を安心させるようにゆっくりとおっしゃいました。


 用意された昼食は質素なものでしたが、どれも丁寧に作られていました。あくや脂を丹念に取り除いてじっくりと煮込んだスープはお屋敷でも作ってみたいほどでした。

 少しだけ残念だったのは、ロザリー様がお気に召していたすみれの砂糖漬けが出されなかったことでした。


 日が沈み、ロザリー様は私を連れて謁見の間へ赴かれました。石造りの部屋は足音や声をよく響かせて、床は鏡のように辺りを映し込んでいました。

 扉の近くにも両壁にも、槍を携えた兵士が立ち並んでいました。部屋の奥はいくらかの階段に分厚い絨毯が敷かれ、その上には威容のある大きな椅子が存在感を放っていました。王はその椅子に座ってロザリー様と私を見下ろしていました。


 あれだけ軍備を強化している王はどれほど大きくて厳つい人なのだろうと考えていましたが、実際の王はどちらかというと細面と言ってもいいほどでした。髪は血筋なのかやはり柔らかそうに巻いていて、眉間のしわが神経質さを見せていました。

「謁見をお許しくださり、恐悦至極に存じます、陛下」

 ロザリー様は深く頭を下げられました。私も片足を引いて膝を曲げ、しっかりとお辞儀をしました。

「前置きはよい、エインズワース。説明を始めよ」

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