開かれるもの
それからもロザリー様は王城と手紙のやり取りをなさっていましたが、内容は芳しいものではないようでした。何通目かの手紙が届いた翌朝、ロザリー様は私に封筒を渡されました。それはずいぶんと薄いものでした。
「イラ、このまま書面で言い合っていても埒が明かない。王城へ行って直接話をつけることにしよう」
ロザリー様は張り詰めたような決意を滲ませておっしゃいました。ロザリー様のお留守をお預かりするのは不安でしたが、私はご心配をかけまいとその気持ちを隠してお尋ねしました。
「かしこまりました。いつ頃お出かけになるのですか?」
「向こうからの返答にもよるが、雪が降らないうちにしようかと思っているよ。君も連れて行くからそのつもりでいておいで」
予想外のお言葉に少しぽかんとしてしまいました。
「ロザリー様、よろしいのですか?」
「君もあの件については当事者だからね。私の隣に立って、王にしっかりと顔を見せてやるといい」
「はい、承知いたしました」
当代の王に会ったことがなかった私の頭の中には、先代や先々代の王の姿が浮かんでいました。強硬な対外政策を敷いているという当代はどのような苛烈な人物なのだろうと、早くも怯えが心をよぎりました。
「君は何も言わなくてよいから、気楽にしていなさい。説明はすべて私が引き受けるよ」
ロザリー様がずっと側にいらしてくださるということで、私は自分自身を励ましました。
「……実を言うと、君をひとり屋敷に残したくないのだよ。窮屈だろうけれど、しばらくは私の目の届くところにいてくれるかい」
「もちろんでございます」
ロザリー様が向けてくださる思いは窮屈どころかとても嬉しいものでした。私は思わず顔をほころばせていました。
森へ出かけていた時間がぽっかりと空くようになり、私はそのほとんどを書物を開いて過ごしました。お屋敷にあるものはほとんど読み切ってしまい、既に内容のわかっている物語を繰り返していました。もちろん幾度読んでも飽きることのないお気に入りの書物も数冊ありましたが、やはり次第に退屈を持て余すようになってしまいました。
ある晩にロザリー様が「イラ、何か欲しいものはないかい?」と尋ねてくださったとき、私は食いつくようにお答えいたしました。
「それでは、ロザリー様がお休みの間、気を紛らわせるものが頂きとうございます」
「ああ、そうだね。気がついてやれなくてすまなかった。気を紛らわせるもの、か。具体的な希望はあるかい」
「それでは、新しい書物が欲しゅうございます。……よろしいでしょうか」
本が大きく高価であることは知っていたため、私は少しおずおずと申し上げました。ロザリー様は即座に頷いてくださいました。
「もちろんさ。早速手配させよう」
そうしてロザリー様は、注文の書き付けを作ってくださいました。