不足
暮らしは悪化の一途をたどるばかりで、ついには充分な量の食べ物さえ届かなくなりました。
私は少ない食べ物でもお腹を満たせるようにアリスから教えてもらったような工夫を毎日凝らしました。
ここでの生活を選んだのは私でしたから、弱音など吐けるはずもありませんでした。
「ほら、君はきちんと食べなければ」
ロザリー様は食卓につくたびにそうおっしゃって、ご自身のお皿の中身を半分ほど私の方へ移されました。
「しかし、ロザリー様……」
分けていただいた食事に手をつけられずにいるとロザリー様はお笑いになりました。
「知っているだろう、イラ? 私は血を吸ってさえいればこのようなものを食べる必要はないのだよ。人間である君が腹を満たすのが先だ」
「かしこまりました。……申し訳ありません、ロザリー様」
食べずには生きていられない自分のこの体がひどくいやしいものに感じられました。
ロザリー様はご自身のお皿にわずかに残ったお食事を、私に合わせるようにゆっくりと召し上がっていました。
確かにロザリー様はほとんどお食事を召し上がらずにいらしても、お姿にもご様子にもお変わりはありませんでした。
食事のたびにロザリー様はご自身の分のお料理を分けてくださいました。そのご厚意に甘え続けるのも気が引けてしまい、かといって最初から私の皿に多く取り分けておくような図々しいこともできませんでした。
私は考えた結果、大皿にお料理をよそって食卓へ運び、そこから食べる分を小皿へ取り分けることにしました。この方法は、ロザリー様も私も過度に遠慮や引け目を感じることのない、なかなか良いものだったのではないかと思っています。
ともあれ、ロザリー様のお心遣いを存分に頂き、私はこの厳しい時代をひもじさにあえぐこともなく生き延びることができました。
ロザリー様は森の花々を使った新たな香水を作り続けていらっしゃいました。それは街に売るためというよりも、ロザリー様ご自身の探究心を満たすためのようでした。
新しい香水は花びらを幾重にも重ねたような濃い色合いを持つものでした。肌や衣服に色が付いてしまうので、他の香水と同じようには使えませんでした。
真紅の薔薇の香りと色とを持った香水を頂いた私は、水を張ったガラスの器に一滴を垂らしては赤色がゆらゆらと落ちながら広がっていくのを見て楽しみました。
甘い香りとともに色が溶けていく様子はどこか葡萄酒に落ちるロザリー様の血を思わせて、とても美しいものでした。
その色を出すためには普通の香水を作る以上に大量の花が必要でした。
私は時間を見つけては森へ花を摘みに向かいました。森は広く、日を重ねるごとに私はその奥へ奥へと入り込みました。