悲嘆
暮らし向きは良くならないまま、テイラー嬢の夫も帰ることのないまま、テイラー嬢は遠くへと旅立っていきました。
彼女の葬儀の日、ロザリー様と私は厚く覆いをした馬車で仕立屋へ向かいました。ロザリー様はそのまま馬車の中でお待ちになり、私は彼女の家族や知人と共に墓地へ向かいました。
固く閉ざされた棺は最後まで開くことはなく、花が添えられ土をかぶせられている間にも、本当にその中にテイラー嬢が眠っているのだろうかと私はぼんやりと不審に思っていました。
小さな教会に移り、牧師の説教や周りの人々の語る思い出話を聞いているうちに、彼女のいない空虚さがこみ上げてきました。
お互いが少女の頃から親しくし、私にとって唯一の「友人」と呼べる存在だったのです。私は彼女からもらったハンカチを握りしめ、そっと目元を押さえました。
葬儀を終えると、もう日は暮れようとしていました。
私はテイラー嬢の息子たちに短い挨拶をして、ロザリー様のいらっしゃる馬車へ入りました。
「イラ……、私も今から彼女に別れを告げようと思うのだけれど、いいかい」
「……ええ、ロザリー様」
馬車を走らせ、ロザリー様と私は先ほど葬儀が執り行われた墓地へ赴きました。
彼女を見送った人々も姿を消し、辺りは暗さを増して閑散としていました。
ロザリー様は墓碑の前に花を置かれ、ものも言わずに佇んでいらっしゃいました。私も改めて彼女の笑顔や声を思い出して再びハンカチを取り出しました。ふと目に入った、時を止めた自分の手がとても恨めしく思えました。
もしかすれば私は彼女と同じように数十年を生きて命を終えていたのかもしれません。いいえ、考えてみれば私は、あの森のライラックの下で何もわからないうちに死んでいてもおかしくはなかったのです。
その昔にロザリー様が私を拾ってくださったこと、血を下さり、永い命を下さったことへの感謝が薄れたわけではありません。それでもこの時ばかりは、人間でありながら人間としての寿命を失った自分がひどく歪なものに思えてしまい、テイラー嬢に対して言いようのない後ろめたさを感じました。
はじめから永い命を持ってお生まれになったロザリー様にこの感情を説明申し上げることもできず、さらには気持ちを告げることでロザリー様が私に血を与えたことを後悔なさるのではないかという思いも拭えず、私はテイラー嬢への追慕とひたすらな孤独とを飲み込み、ひとりもがいていました。
この歪さは私の胸に長年突き刺さっていました。しかし、時が……、ロザリー様と暮らす永い時が経ち、振り返れば私はいつしか、自分のことを人間というよりはロザリー様と同じような魔の者に近いものとして考えるようになっていました。
そして死別の悲しみも気付けば薄らぎ、テイラー嬢のことは、いわばぽっかりとした明るさと共に思い出せるようになっていました。
しかし当時の私は、この悲しみが時とともに癒されるものであると知る由もなく、二度とテイラー嬢に会えないという事実に打ちひしがれるばかりでした。
彼女の作ってくれたドレスや長衣、ハンカチを見るたびに彼女のことを思い出しては息が詰まりました。仕事をして気を紛らわせようとしても、ふとしたきっかけで空しさが心の隙から入り込みました。
食欲もわかず、夜ごとの眠りも浅くなり、置き去りにされた寂しさだけが募りました。
ロザリー様は私を心配なさってよく眠れるというハーブを使ったお茶や香水を下さいました。そのお気持ちはとてもありがたいものでしたが、悲しみを拭い去ることはできませんでした。
早く元のように元気を取り戻し、ロザリー様にこれ以上ご心配をおかけしないようにしなければ、と思えば思うほどにテイラー嬢のことを思い出してしまい、重い闇の中でもがくような気分でした。