新たな兵士
ロザリー様のいらっしゃる、陽の光の入らない部屋に行く前に、私たちは短いお喋りをしました。
「今、お城では街の男をいっぱい集めてるんですよ」
テイラー嬢は少し声をひそめました。
「あら……、なぜですか?」
「これまでの兵隊がみんな国を出て行っちゃってますから。新しい兵士がほしいんですって」
私は「まあ……」と答え、「ここのご主人は行かれてはいないのですね」と訊きました。
「当然ですよ。あの人にそんな危険なこと、させられませんもの」
テイラー嬢はわずかな憤慨さえ滲ませてきっぱりと言いました。それから、また内緒話をする顔になってこう教えてくれました。
「本当はうちの人にも話が来たんですけどね。ほら、あの人って体格もいいし、見るからに強そうじゃありません? でも私が、『この人がいなくなったら、うちの店はやっていけません』って断ったんです。向こうも現にうちに仕立ての依頼をしてるわけですし、そう言われたら引き下がるしかありませんよね」
話を終えて私をじっと見つめるテイラー嬢に、私は「これも、秘密のお話ですね」と応えました。
テイラー夫人はいつもよりかしこまった口ぶりで、「ご理解いただけて、嬉しいですわ」と子供のように悪戯っぽく笑いました。
「それにしても、以前は王国の兵士っていったら街の男の子の尊敬と憧れの的だったのに、今じゃ手当たり次第の寄せ集めみたいになっちゃって」
テイラー嬢は最後にふうっとため息をついて、「じゃあイラ様、行きましょうか」と採寸部屋の扉を開けました。
お屋敷に戻ってから、私はロザリー様にお尋ねしました。
「ロザリー様は、異国へ行ってしまわれることはないとおっしゃっていましたが……、王国の兵士に加わることもございませんか?」
ロザリー様は私の問いに、少し考えられました。
「今の状態も、兵士と言えなくはないな。隊に属しているわけではないけれど、敵と戦い、国を守っているわけだからね。けれども一般の……、いわゆる衛兵などに加わるつもりはないよ。……そもそも加わることもできないだろうけれども」
「なぜですか、ロザリー様?」
人ならざる力を持つロザリー様ならば、人間の兵士では及びもつかない素晴らしい活躍をなされるのではないでしょうか。私はそう感じました。
「一兵卒としては、私は使いにくすぎるのだよ。昼間には動くことができないし、人間に合わせて活動することも難しい。兵隊の中で求められるのは、命令に従い、束となって一様に動くことだからね。私は人間の兵士に交じるには色々と特殊すぎる」
「そうでございましたか……」
兵法や用兵といった事柄にまったく疎い私は、ロザリー様のお言葉に納得するばかりでした。