おとぎ話の外
ロザリー様が以前おっしゃっていた悲しいお言葉とは裏腹に、テイラー嬢は人間としての時を止めた私に変わらない朗らかさで接してくれました。
テイラー嬢は街での流行やテイラー家の人々のことを教えてくれました。それらは目まぐるしいほどに新鮮な変化があって、私は驚かされるばかりでした。目を円くして聞いている私に、テイラー嬢は生き生きと身振り手振りを交えてさまざまなことを語ってくれました。
私の語れることはお屋敷の本の内容や森の季節の移り変わりなど、代わり映えのしないものがほとんどでした。テイラー嬢は私の話を聞くと、「イラ様は、おとぎ話の世界に住んでいるようですね。『いつまでもしあわせにくらしました』って」と笑いました。
それからお料理や服や、そのほか女性ならではのこともよくお喋りしました。そう、テイラー嬢は相変わらず、夫について顔を緩ませて語っていました。
私はというと、ロザリー様への思慕やロザリー様との思い出はそれこそ語り尽きないほどにありましたが、それらはすべて大事に胸の中にしまい込み、テイラー嬢に明かすことはしませんでした。
ある時ロザリー様と私が仕立屋に行くと、真っ赤な生地で店がほとんど埋め尽くされそうになっていました。
「エインズワース様、イラ様、いらっしゃいませ」
赤色をかきわけるようにしてテイラー嬢が姿を現しました。
「やあ。……これは一体、どうしたんだい」
「今度、海の向こうへの大規模な派兵があるんですって。王城から御旗やら馬具やらの依頼が来て、この辺りの仕立屋はみんなてんてこまいですよ」
「なるほど、忙しい時に来てしまったね。すまない」
テイラー嬢は「何をおっしゃってるんですか」とさっぱりと言いました。
「寸法や意匠の決まったものばかり作らされて、そろそろうんざりしてたところなんです。イラ様のドレスは思いきり腕を振るいますよ」
それからテイラー嬢は「あっ、いけない」と口元を押さえ、「私がうんざりしてたなんて、他の人には言わないでくださいね」と口の前に人差し指を立てました。
「ああ、私たちは何も聞いていないよ。そうだね、イラ?」
「ええ、お父様」
ロザリー様と私も、共犯者のように笑いました。
「イラ様のドレスは、絶対に赤以外の色にしてくださいね」
テイラー嬢は真剣な顔で私に頼みました。
「それでは、青や緑や……、落ち着いた色を見てみますね」
テイラー嬢の夫が森の草木や空を思わせる生地を運んでくると、テイラー嬢は「ああ、ほっとする」とやや大げさにため息をつきました。
私たちが選んだのは、百合や白ばらを思わせる絹のサテンでした。わずかに緑がかった艶やかな白は華やかさと清らかさを併せ持っていました。
「これでドレスを作るのが楽しみだわ。イラ様、楽しみにしていてくださいね」
テイラー嬢はそのサテンを私の体の前に当て、今にも踊り出しそうなほど軽やかな表情をしていました。