焦がれ
テイラー嬢の頭に幾本かの白髪が見えるようになった頃、私は再びロザリー様から血を頂きました。
前兆は飢えとも渇きともつかない奇妙な物足りなさでした。舌先にじんわりと痺れるような、膜が張ったような感覚があって、食事をしても水を飲んでも消えませんでした。
それから自分でも無意識のうちに、いつにも増してロザリー様を目で追っていました。
「イラ、何か私に話したいことでもあるのかい?」
「いいえ、申し訳ありません、ロザリー様」
私はロザリー様からの質問に恥ずかしくなって目をそらしました。けれども気付けばまた、ロザリー様のお顔や喉元、そして手に目が向いているのでした。
「イラ? ……ああ、君が私の血を飲んでから、もう何年くらいになるかな」
「あの時はまだ、テイラー嬢の子供が赤子でしたから……、10年も経つでしょうか」
ロザリー様は納得がいったというように大きく頷かれました。
「なるほど。君は私の血を求めているのだね」
そのお言葉にはじめこそ驚きましたが、言われてみれば体の内からのこの欲求は、それ以外にないように思えました。
「ロザリー様、それでは……、その、また血を頂いても……、よろしいでしょうか」
これまでロザリー様に何かをお願い申し上げることなどほとんどなかったので、私はおずおずとお尋ねしました。
「もちろんさ。次の新月の晩に、血をあげよう」
その会話をしたのは上弦の月の頃で、私は血を頂くまでしばらく待たなければなりませんでした。
お昼のうちは普段と変わらずに過ごせましたが、日が落ちてロザリー様の姿が目に入ると、どうしてもその白い肌を焦がれるように見つめずにはいられませんでした。
「君のような女性に熱っぽい視線を送られるのは悪い気はしないけれどね」とロザリー様は苦笑されました。
「どれだけ私を見ていたところで月の満ち欠けが早くなるわけではないのだから、少し落ち着いておいで。ほら、なにかで気を紛らわせるといい」
「は、はい、ロザリー様……」
私は無理矢理にロザリー様から視線を外して、開いていた本に目を落としました。それでも自室に入るときまで、ひっきりなしにロザリー様のご様子をうかがってしまってはいたのですが。
満月の晩にはその欲求はことさらに強くなりました。ロザリー様のお姿を目にすると胸がうずきましたが、それでも目を離すことはできませんでした。
私の中のほんのひと雫のロザリー様の血が満月に反応し、熱に浮かされたような心地がしていました。
ロザリー様は「イラ、今日はもう部屋に戻っていたらどうだい」とおっしゃってくださいました。私はもう何も手に付きそうにありませんでしたから、そのお言葉に従いました。
じっと横になっていても、熱い血が流れる音がざわざわと耳の中で聞こえるようで、私はベッドの中で一晩中、高鳴る胸と荒い息を抑えようと懸命になっていました。