元の暮らしへ
カップの中身を飲み終えると、ぽかぽかと体が温まっているのがわかりました。
「ありがとうございました、ロザリー様。カップを片付けてまいります」
「イラ、休んでいなさいと言っただろう」
ロザリー様は少し苦笑されて、空のカップを私の手から取られました。
「でも……。もうすっかり気分も良くなりましたし、働いていないと落ち着きません」
「それでは、今日の夕食の支度を頼むよ。昼間のうちは安静にしておいで」
「かしこまりました、ロザリー様」
「いい子だ」とロザリー様はおっしゃって、私の頭を撫でられました。
幼子にするようなその振る舞いが不思議と快く、私は笑みを漏らしました。
「私が目を覚ましてから、ロザリー様はよく私に触れてくださいますね」
「そうかな。……君の温もりが愛おしくてね」
ロザリー様は少し恥ずかしそうに笑われました。手袋の乾いた感触がさらりと額に触れました。
夕食は干した魚と季節の野菜を煮込みました。私の都合ではありましたが、目覚めてから突然重たいものを食べるのは良くないかと考えたのです。
「君がいると、この屋敷の中に温かい灯が点るようだね」
ゆっくりと食事をしながら、ロザリー様はそうおっしゃってくださいました。
「ロザリー様は私が眠っている間、何か召し上がりましたか?」
ロザリー様はそっと首を横に振られました。
「実を言うと、私は……、血を飲んでさえいれば食物は必要ないんだ。けれども、君と食卓を囲めることが楽しくて、すっかり習慣づいてしまったよ」
「そうだったのですか……」
今さらながらに新しいことを知り、私は驚きました。吸血鬼がどの程度人間と同じような体をしているのかは分かりませんでしたが、それならば消化に良いようにしたこの献立はロザリー様にとってもよかったのかもしれない、と私は少し安心しました。
眠る前に、私はロザリー様から頂いたダガーを取り出しました。手袋をなさっていたロザリー様のご様子を思い出しておそるおそる純銀の柄や刃に触れてみましたが、金属のひんやりした感触を感じるだけで、灼けるような痛みも肌が灰をこぼすこともありませんでした。
一晩眠ると体の調子も以前に増して良くなっていました。
外では太陽の光が草葉を輝かせていました。歌を口ずさみながら洗濯物を干しているうち、ふと日光は魔の者を傷付けることを思い出しました。
それでも私の肌は焦がされることもなく、白く光を浴びていました。
私は本当に自分がロザリー様と同じ、永い命を手に入れたのか不安になりましたが、ロザリー様のお言葉を信じるよりほかにありませんでした。もちろんロザリー様のお言葉に嘘偽りはまったくありませんでした。