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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
IX はじまり
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目覚め

 気がつくと自室のベッドに寝ていました。痛みや寒気は嘘のように消え去っていて、ただひたすら気だるさを感じていました。

 私は夢現のまま天井を見やり、気を失う前のことを思い返していました。


「イラ……」

 傍らでロザリー様のお声がしました。

 身を起こしてお返事を申し上げようとする前に、私の体はロザリー様にしっかりと抱きしめられていました。頭の芯が枕の上に置き去りにされてしまったようでどこか体の感覚に現実味がありませんでした。

「よかった……。君が、目を覚まして……」

 ロザリー様の腕にひときわ力が込められました。

「ロザリー様……」

 私はぼんやりとした気分を残したままお答えしました。ロザリー様のお体は震えていらっしゃり、その内側からのざわめきが微かに伝わってきました。

 ロザリー様の匂いを感じ、私の体温でロザリー様のお体が温められていくのを感じているうちに、じわじわと頭の中がはっきりしてきました。


 どれほどの時間そうしていたでしょうか。ロザリー様は最後に私の髪を優しく撫でてくださいました。私は少しだけ、甘えるように頭を動かしました。

「気分はどうだい?」

 名残惜しそうに左手の指先で私の髪や頬に触れながら、ロザリー様は訊いてくださいました。くすぐったさを感じながら私はお答えいたしました。

「もうなんともございません、ロザリー様」

「そうか……。でもまだ少し顔色が良くないようだし、今はゆっくり休んでおいで」


 ロザリー様は私に横になるように勧められました。私はそのお言葉に従う前にお尋ねしました。

「ロザリー様……」

「どうかしたかい?」

「私は本当に、永い命を手に入れたのでしょうか」

 ロザリー様が怪訝な顔をなされたのに気付き、私は続けました。

「その、ロザリー様の血を頂いたことは覚えているのですが、まだ実感が湧かなくて……」

 ロザリー様は慈しむ笑みを私に向けられて、穏やかに教えてくださいました。

「君はもう、確かに私と同じ時間に立つ存在だよ。5、6年も経てばはっきりとわかるはずだ」

 ロザリー様のおっしゃることですから、疑うはずもありません。私は安心してベッドに体を沈めました。


 こうして私は、ロザリー様と過ごす日々の、いわば第二の始まりを迎えました。

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