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永いメイドの手記  作者: 稲見晶
VIII 来し方
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地下の肖像画

 ロザリー様のお手紙の力か、雪解けの前に肖像画も屋敷へと届きました。

「エインズワース様のお屋敷でしょうか? あの、ご依頼いただいていた先生の絵をお届けに来ました」

 若い徒弟が2人、慎重に絵を運び入れました。

 私は地下に彼らを案内し、絵を飾るつもりで空けていた壁を示しました。

「なるほど、日光は防げますね。あとは湿気に気を付けていただければ……」


 額を飾ってもらっていると、ロザリー様の寝室の扉が開きました。徒弟たちがびくりと動きを止めました。

「ああ、驚かせてすまない。ええと……」

「工房の徒弟の方たちでございます。今、肖像画を飾ってもらっていて」

 徒弟たちは絵を落とさないよう慎重にロザリー様を向いて、「ご挨拶もせずに申し訳ございません、旦那様」と頭を下げました。

「いや、こちらこそ出迎えもせずに失礼をした。どうぞ続けてくれ」

「はい」

 てきぱきとした手際で絵が飾られました。

「それでは、こちらでよろしいでしょうか」

 ロザリー様と私は絵を正面から眺めました。よそ行きの顔をして座っている自分自身の姿を見るのは、どことなく気恥ずかしいものがありました。

「素晴らしく描いてくれたものだね。礼を伝えておいてくれ」

「は、はい!」

 徒弟はまるで自分自身が褒められたかのように顔を輝かせました。


 彼らを見送ってからロザリー様は地下室にお戻りになり、しみじみと絵をご覧になっていました。

 私もそのお隣で絵を見上げました。

 肖像画の中のロザリー様は微笑をたたえてまっすぐに正面を見ていらっしゃいました。その灰色の瞳は深い叡智をのぞかせ、今にも神秘の言葉を語られそうでした。


 実際のロザリー様でしたら恥ずかしくてとてもそうしてはいられなかったでしょうが、私は絵画のロザリー様のお顔に惹きつけられ、夢中になって見つめていました。

「イラ」

 すぐ側からのロザリー様のお声に、心臓が跳ね上がるようでした。

「はい、ロザリー様」

「少し、絵の前に立ってみてくれないか。それからこちらを向いて……」

 仰せの通りにすると、ロザリー様は絵と私とを交互にご覧になって、満足げに頷かれました。

「なるほど、君はまた少し大人になったのだね。……そうだ、椅子を持ってくるから、新しいドレスに着替えて絵の前に座ってみてくれるかい」

「いえ、ロザリー様、まだお仕事も済んでおりませんので……。ゆ、夕食の後でもよろしいでしょうか」

 ロザリー様は名残惜しそうなご様子でしたが、「ああ、それではそうしよう」とお答えになりました。

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