晩餐
部屋に戻ると、何をしようかと考える間もなく、メイドが着替えの手伝いをしようと近づいてきました。
腰を高く締めるコルセットにかっちりとした付け襟は、確かにひとりでは着ることができないであろうものでした。スカートは大きく膨らんで、気を付けていないと家具や壁にぶつけてしまいそうでした。
後からさらに何人かのメイドが入ってきて、私の髪を結い上げて宝石の編み込まれたヘッドドレスをかぶせました。
それだけでも窮屈な思いをしていましたが、さらにたっぷりと白粉や口紅を塗られたのには、ねっとりとしたにおいに息の詰まるような思いでした。
ようやく解放されましたが、ドレスを汚したりお化粧を崩したりしてしまうのが心配で、できるだけ身動きを取らないようじっとしていました。
メイドは私の部屋に付くひとりを残して去っていきました。
私は少しでも気持ちを落ち着けようと、春を喜ぶ小鳥の歌を思い出しました。
不意に扉がノックされ、私はびくっと顔を上げました。
「ロザリー=エインズワース閣下をお連れいたしました」
先ほど私の髪を結ったメイドの言葉に、思わず顔がほころびました。
「お父様……!」
ドレスの裾を引いて扉へ向かうと、ロザリー様もいつもより上等なお召し物でいらっしゃいました。
「イラ、よく似合っているじゃないか。絵画から抜け出てきたのかと思ったよ」
私ははにかんでうつむきました。
「さあ、行こうか。晩餐会が開かれるそうだよ」
ロザリー様は私の手を取り、大広間へ向かわれました。
大広間には、とても数えきれないような人が集まっていました。
着飾った貴族に、給仕の使用人。真っ白なクロスのかかった長いテーブルは、一端から反対側のもう一端が見えないほどでした。私はロザリー様の隣に座り、礼儀正しく、行儀よくしていないとと考えて胸をどきどきさせていました。
私はこの晩餐会で、初めて若い王の姿を見ました。彼は先王譲りの柔らかそうな髪にきらびやかな冠を戴き、堂々とした立ち姿で挨拶を述べました。絨毯のように厚いマントがその威容を存分に引き立たせていました。
王の言葉が終わり、食事が運ばれ出しました。広い机の上に所狭しと皿が並びました。
蕪のポタージュなどの一見ありふれた料理でも、滋味としか言いようのない深い味わいがあり、どのようにこれを作ったのだろうと感心するばかりでした。
とりわけ印象深かったのは、血や叩いた内臓肉などを詰めた腸詰めでした。濃厚な味と塩気があり、時折快い歯ごたえが感じられました。
口紅を落とさないよう気を遣っていたのと、コルセットでお腹を締め付けていたのとで心ゆくまで食事を楽しめたとは言えませんが、それでも一品一品の料理が食材の魅力を完璧に引き出していることが知れました。
食事を終えた後も人々はその場に残り、親しげに語らっていました。私はロザリー様が周囲の人たちと言葉を交わす横で、なるべくしとやかに見えるよう微笑んで静かにしていました。
しばらく経つと、召使いたちがひそやかにテーブルに近づいてきました。彼らは座っている貴族に耳打ちをするように話しかけ、広間の外へと貴族を案内していきました。