プロローグ
幕末。 桜が満開に咲き並ぶ華やかな江戸の街並みに、鼻歌まじりにのんびりと歩く少年がいた。 少し癖のある黒い猫っ毛の髪。 少しつり上がってる黒い目。 着ている白い着物に腰に挿している白い刀はどこか少年に似合っていた。 容姿が良いのか、通り過ぎて行った女性、屋台などで偶々少年を見かけた女性などは少し頬を朱に染めながら見惚れている。 少年はそんな女性たちの視線に気付かずに暫く街並みを歩いていると、何かの存在に気がついた。
「なんじゃ・・・、これは・・・?」
少年はその存在の近くまで移動し、確認を始めた。
「何かの陣じゃの・・・。 いったい何の陣じゃ・・・?」
少年は周りを見渡した。 しかし、街の人間はこの陣に気づいていない様子。 中にはその怪しい陣を踏みつけて通り過ぎていく子供たちの姿もあった。
「ちょいと、そこの兄さん」
「ん、どうしたんだい?」
少年は確認のために近くに通りかかった男性の足を止め、声を掛けた。 少年は陣のほうに指を指して男性に言葉を放った。
「この緑色に輝く陣が見えるかの?」
そう聞かれた男性は少年が指差す方向に視線を向ける。 しかし男性は少し困った様な表情をしながら少年に言葉を返した。
「悪いが何も見えないな・・・」
「そうか、すまんの。 変なことを聞いて」
少年がそう言うと男性はおかしなモノを見た様な顔をしながら立ち去って行った。
少年は再び一人になって緑色に輝く陣の方を見る。
(どうやら、この陣はワシにしか見えないようじゃ・・・)
少年は考えた結果、そっとしておこうと自己完結し、後ろに振り返り歩き始めた時だった。