ペーパーの僕
いきなり書きたくなって、ただひたすら書いていったので、まとまりないかと思いますが、すみません。
「じゃあ 母さん、行ってきます。」
玄関口の母さんに向かって、少し振り向き、軽く手を振り返しながら言った。
そんな僕に母さんは何も言わずに、やっぱり微笑んでいるだけ。いつものように。
勤めだして3年になるこの仕事は順調。
今日も上司は仕事に追われて朝から怒鳴り散らしてうるさい。
相変わらずだな。っと目配せしながら書類の山陰に隠れながら隣りのデスクの青木を呆れ顔で会話した。
その後、青木が腕時計を指差して合図する。
そうだ、今日は大事な商談があるので、早速仕度をすると少し早めに2人で取引先に向かった。
――なんとか上手く話はまとまった。
2人ともクタクタでも、いい疲れで会社に戻る途中だった。
「おい、今日も長かったな。 俺はどうも苦手なんだよなぁ。悪い人じゃないんだけど、クドくてさ話が。うちの部長のガミガミに比べたらいいけどよ。」
「青木も思うか? 実は、僕もそう思ってたんだけど、さすがに途中で席を立てないしな。 毎回どうやって切り上げようか考えてるんだ。
とりあえず、打ち合わせや商談は午前中に設定するようにはしてるんだ。昼には抜け出せるからな。」
免許は持っているが、ペーパーな僕は電車通勤。
今日も営業車を青木が運転してくれている。
そんな中、たった今抜け出してきた取引先の営業担当の話で苦笑いしあっていた。
信号が青に変わっても、軽い事故渋滞の所為で前に進めない。
対向車のタクシーが減速しつつもスピードはかなりのまま右折してゆくのが視界に入った。
「「ああっ!!」」
―――ガシャン バキバキ キキキィィィ―――
咄嗟に僕は、シートベルトを外して車外へ飛び出した。
後ろから青木の叫ぶ声がしたが、言葉なんて分からない。
何故かそのままになんて出来なかった。
1,2mは軽く飛んだであろう自転車に乗っていた彼女はグッタリとアスファルトに横たわっていた。
大きく目立った外傷はなく、呼吸もしている。どうやら気を失っているようだ。
タクシー運転手も慌てて駆けつけてきて、彼女を挟んだ状態の僕の向かい側にしゃがみこんでいた。
様子を心配そうに覗き込みながら、ケータイで自分のタクシー会社に電話して、今後の動きを説明されているようだ。
さっきから「はい。 分かりました。 はい。」その繰り返しだ。ホントに分かっているのだろうか。だんだん腹が立ってきた。
自分のケータイが上着のポケットで鳴る。
待受け画面に「青木」っと名前が出てきた。どうやら渋滞にはまりながらメールを送ってきた。
『なんとか部長には言っておく。済んだら会社に速攻戻って来いよ。』
救急車やパトカーが来て、事故処理をしだした。
一応その場に居合わせたので僕も事情を聞かれたが、無関係と分かるとすぐに無罪放免で拘束を解かれた。
とりあえず、路線バスに乗って会社まで戻ってきた。
――1週間後――
どう考えてもうちの会社には関係の無いような女性がやってきた。歳や背格好は母さんと同じように感じた。あまり派手でない服装で、小奇麗にはしているが、どこか疲れたような寂しい印象のする人だった。
受付の女の子と何やら会話をして、丁寧にお辞儀をしている。
「こちらへよろしいですか。ただ今呼んで参りますので、どうぞお座りになってお待ちください。」
応接セットに接待しているのが視界の端に映り、彼女の声だけが聞こえる。
コツコツ コツコツ
だんだん受付の女の子が近づいてきた。
「中村さん。お客様がおみえですよ。 なんだか、先日娘がお世話になりましたので、ご挨拶に。っておっしゃってましたよ。」
その言葉でハッとした。先日の事故の彼女の母親だという事に気付いたからだった。
その後、タクシー会社の人も運転手も数回見舞いに来て謝罪していったそうだ。
下手をしたらそのまま逃げられるという事だってあり得たのだから、僕が駆けつけた事でキチンと対応された。
その事に感謝しているという事だった。
彼女の容態は、足を骨折しているとはいえ、他はいたって元気だそうだ。
その母親は立ち上がって、深々と何度も頭を下げ、お礼を言って帰っていった。
今日は、定時で上がれたから、見舞いでも行くかな?
外に出てみると、小雨が降っていた。
ここのところ暑さが続いて、通り雨もなくってカラカラになってたから、もう少しまとまって降ったらちょうどいいかな。なんて思いながら見上げると、あまりどんよりとしていない雲が薄く空に広がっていた。
あの日の彼女のグッタリとしていた 青白い顔を思い出した。
今日はどんな笑顔を向けてくれるだろう。
目を開けた彼女はどんなだろう。
そんなことを思いつつ花屋に立ち寄った。
まだ見ぬキミの笑顔を思い浮かべながら花を選ぶ
ピンクのカーネーション
カーネーションより少し濃い目のピンクのガーベラ
後はおまかせでバスケットに仕立ててもらった。
何故だかドキドキが止まらない
病院について、記憶の中の数字を辿って病室を探す。
その間中も心臓は落ち着かずに、逆にどんどん早くドキドキを繰り返しているようだ。
記憶の中の数字と名前を口の中で復唱する。
両方がピッタリと合うまで復唱は続く。
ピッタリと合うと息を呑んだ。
そしてギュッと目を閉じて、深呼吸を3回ゆっくりしてみた。
扉に手を掛けた。