律儀な猫に気紛れ烏 プロローグ 「真紅の出会い」
これは夢なのだろうか?
それとも現実なのだろうか?
栗色の瞳に漆黒の髪をした一人の少年は炎の紅い光に照らされながらそんな事を思う。
少年は燃え盛る自分の帰るべき家の中にいる。
その家の周りには騒ぎを聞き付けた野次馬と炎で溢れかえっている。
少年ははそんな光景を見て何を思ったのだろうか。
燃え盛る地獄の最深部へ歩み寄っていく。
それを見た野次馬達はそれを止めに入ろうとする。
しかし、それを阻止するかのようにあるいは、少年の退路を塞ぐようにその場に焼けた木々が倒れている。
少年は再び周りの光景を見る。
さっきと何も変わらない。
燃え盛る灼熱の炎に何か叫んでいる野次馬も。
日常のとある一ページでしかない。
ただ運が悪くて、たまたま自分が世界の中のほんの少しの不幸に見舞われているだけだ。
―だからこれに絶望してはいけない 少年は強く思う。
しかしその思いとは対照的に身体は泣いている。苦しんでる。痛がっている。
その事実に少年は泣きそうになる。
いや、もう既に泣き叫んでいる。
涙も声も枯れるほど泣き、叫ぶ。
「大丈夫だよ。今助けるね?」
不意に何処からか女の子の声がした。
優しそうで、それでいて何だか活気のある声だ。
すると、燃え盛る炎にひびがはいる。
するとそのひびをこじ開けるように、中から女の子が現れる。
真紅の瞳に真っ赤な髪、背丈は少年程度だろうか。
その女の子は誰の目から見ても純粋にかわいい。
女の子は少年に向かってそっと手を差し延べる。
そのあまりにも突然で希望に溢れた小さな手を見て、少年は少し戸惑う。
「大丈夫よ、何も恐がらなくていい。あなたを救う ためにここまで来たんだ から」
そんな事を女の子は言う。
「なんで?なんで僕なんかを・・・」 少年はありのままの疑問を言葉にする。
その問い掛けに女の子は優しい笑みを浮かべ、
「あなたは私の初恋の人だから・・・かな?」
少年の顔が真っ赤になる。
炎の紅い光に照らされている女の子の頬も微かに紅く染めあがるのがわかる。
「さ、もう時間がないから 早く行くよ?」
「いや、でも父さんや母さんが・・・」
「もう・・・あなたの両親は死んじゃったんだ」
女の子は悲しそうな表情をいや、その瞳には涙が溢れている。
「そうなんだ・・・」
少年も泣きそうになるが、涙は枯れてもう出てこない。
「でも安心して?その悲し みをとってあげるからだから泣かないで・・・」
「・・・」
少年の心に悲しみや怒りの感情が溢れてくる。
―これも日常なんだな
少年は自分にそう言い聞かせる。
そうしないと自分が壊れてしまいそうになるから。
少年はそれらの感情や思いを女の子に気付かれないように隠す。
しかし、それを見透かしたように女の子の口が開く。
「ごめんね。本当にごめん ね」
その言葉を聞いた少年は目の前が滲んでしまう。
「女の子一人も泣かしてしまうのか・・・!」
少年はその場にうずくまる。
―ちくしょう・・・ちくしょう!
「大丈夫だよ。今、その苦 しみをとってあげるね?」
再び女の子が手を差し延べてくる。
しかし、今度は少年の頭に手を置く。
「~~~」
女の子が何かを呟いく。
すると、それまで紅かった少年の視界が黒く染まっていく。
―なんだかあったかいな・ ・・。あれ?そういえば 僕、何してたんだっけ? あれ?・・・
そこで少年の意識は途絶える。
女の子の言葉を残して。
『大好きだよ、慎夜・・・』