青い鳥
初夏、太陽の日差しが強くなってきた頃、1羽の鳥が飛んでいた。
スズメくらいの大きさなのだが、青い色をしており、お腹は白かった。
名前をコルリと呼び、鳴き声はコマドリに似ている。
夏の鳥として、日本に渡ってくるのだった。
太陽の光を受け、ますます身体の青色を濃くし、夏空よりも目立っていた。
雲の中を通ると、綿のように柔らかく、涼しさを感じる。
コルリは飛行を楽しんでいると、急に大声が聞こえてきた。
「ー助けて!!」
少し下降して見れば、マンションのベランダから落ちそうになっている子どもがいる。
歳は6つくらいだろうか。
必死に叫んでいるのだが、皆、無視しているように歩いていく。
ー全く。これだから人間は。
コルリは腹を立てると、子どもに近づく。
その際、身体が輝き、人間の姿となる。
青い髪に、背中には白い羽が生えていた。
まっすぐに少年の元へ向かうと、
「助けてやる」
ぶっきらぼうに言うと、少年の身体を抱きしめ、ベランダへ戻してやる。
少年は涙で顔が汚れていたが、コルリを見て、ぼそりと言う。
「天使…?」
「さあ? もう危ないことはするなよ」
少年の頭を撫でると、コルリはベランダから飛ぶ。
少年が「あ」と声を上げたが、また鳥の姿へと戻り、マンションを離れていく。
皆、唖然としたようだが、すぐ忘れるとコルリは冷めきっていた。
ー日本人は忙しすぎる。しかも子育てしないで、親は何をしているんだ!!
腹を立てながら飛んでいると、雲を口に含む。
冷たいキャンディーみたいな感じで、喉が渇いていたので、ちょうど良かった。
ーん? 今度は何だ?
コルリがカーテンの開いている部屋に注目すると、若い女性が中にいた。
顔も優しそうな感じで、好みのタイプだった。
ーもう危ないな。
何が危ないのかというと、下着を着替えているようだった。
誰も見ていないだろうと思っているのかもしれないが、コルリはじっくり見てしまった。
ー助けてやるか。
コルリはベランダに降りつつ、人間の姿となると、窓をノックする。
中の女性はびっくりしたらしく、悲鳴を上げたようだった。
コルリは心外だとまた窓をノックすると、女性は部屋を後にする。
ー何だ、つまらない。
青い髪を払うと、鳥として行こうとしたのだが、女性が戻ってきて、フライパンを手に持っている。
ーなるほど。面白い女。
ふと笑うと、ベランダの窓が開き、女性が怒鳴ってくる。
「た、誰、あなた!!」
「誰って…コルリだ。知っているか?」
「は? コルリ? 外国人ってこと?」
「違う、違う。…あ、でも違わないか。日本を離れる時もあるからな」
「何を言っているの? 誰か分からないんですけど!!」
女性がフライパンを振ってきたので、コルリは余裕で受け止めると、女性の胸に触れる。
「きゃ!! エッチ!!」
「じゃあ、ちゃんと服を着ろ。しかも誰かが見ていないと思わず、カーテンを閉めろ。そうじゃないと、襲われるぞ」
「え…。何? どういうこと」
「言うことは言ったからな。…これで許してやる」
女性の唇にキスすると、コルリはふふと笑い、ベランダの手すりに乗る。
女性は固まっているので、コルリは一声かけてやることにした。
「下着姿、素敵だったぜ。子どもを作りたかったら、また呼べ」
「!!」
ようやく動き出した女性だが、フライパンが攻撃するよりも速く、鳥となって飛んでいく。
唇は甘く、女性がつけている口紅が良い香りがするのか、コルリはくちばしを動かして味わう。
ーフライパンを持ってきて、戦おうとする女は嫌いじゃない。
ニヤニヤとする代わりに、さえずると、スズメ達が近づいてくる。
「ー何か良いことがあったのか、コルリ?」
「何でもない。お前らは勝手に飛んでいけ」
「そうかよ。じゃあな」
鳥同士の会話は、チュンチュンとか、人間にはそう聞こえるらしく、誰も注目しない。
コルリもそのほうが気楽なので、いつも1人でいるのだった。
ーん? 今度は良い香りがする。
太陽の光が眩しく、少し休もうと思い、一軒家に立ち寄る。
すると母親らしき人物が肉を焼いており、鼻歌を歌っている。
コルリは顔を歪める代わりに、手すりに掴まった足を動かす。
ー何の肉だ? 仲間のか?
立ち去ろうとしたその時、スマホが鳴り、母親がキッチンから離れていく。
その隙に人間の姿となると、開いた窓からそっと中に入り、肉を確認する。
ーこれは…。豚肉みたいだな。
少し切って舌で確かめると、塩胡椒の味がしっかりついており、脂ぎっていた。
胃もたれをおこしそうだと、食べるのをやめると、冷蔵庫を開く。
野菜室を開くと、コルリは「わお」と言葉をもらす。
レタスやキャベツといった、コルリの主食になるものが入っていた。
ーまだ来ないな。
確認すると、レタスを手に取り、葉を口にしていく。
自然の植物には勝てないが、瑞々しく、パリッとした食感も楽しかった。
満足そうに食べていると、足音が聞こえてきたので、レタスを手放し、鳥の姿になってキッチンから出る。
しばらく様子を窺うと、母親が嬉しそうに入って来た。
「嬉しい!! 嬉しいわ!! 子どもができたなんて」
どうやら鳥でいう交尾の末にできた子どもらしい。
めでたいと思いつつ、まだ見ていると、落ちているレタスに、母親が気づく。
「あら。私、しまわなかったかしら…?」
不思議そうに首を傾げると、冷蔵庫を開く。
コルリからすると、冷蔵庫は魔法の道具で、1台欲しいと思ってしまう。
ー何日、入れても悪くならないらしいしな。
コルリも餌を保存しておきたいと思うのだが、渡り鳥なので、置いておく場所がない。
仕方なく諦め、飛び立つと、来た方角が騒がしい。
どうやら人間が喚いているようだった。
ーこの声は…。さっきの女か。
どうやらコルリのことを探しているらしく、ベランダに出ているようだった。
自分から近づいたことなので、責任を取るかと、また戻っていくと、フライパンで手すりを叩いていた。
ー怖っ。…でも魅力的だ。
あははと笑うと、人間の姿となる。
女性はびっくりして、目を大きく見開く。
コルリは冷静で、フライパンを取り上げる。
「あ!! それ…!!」
「こんなものはいらない」
ベランダから捨てると、コルリは魅力的な声を出す。
「私を呼んでいただろう? わざわざ来てやったぞ」
「変質者!! 泥棒!!」
「はあ…全く、うるさいな」
面倒くさいので、黙らせようと、女性の身体を引き寄せ、深いキスをする。
女性の身体が傾がり、その場に腰を抜かす。
コルリは濡れた唇をそのままに、女性に言う。
「私と交尾するか?」
「は…? こ、交尾? …っていうか、その羽!! 天使なの?」
「何とでも言え。とにかく名前を教えろ」
「いや!! その、2回もキスするなんて…」
「ー言え。じゃないと、襲うぞ」
少し凄むと、女性は静かに名乗ってくる。
「…すず。あなたは…?」
「コルリ。人間にはそう呼ばれている」
「コルリ…? 珍しい名前」
「後で調べてみろ。じゃあな、すず。また来るかもしれないから、よろしく」
そう言うと、コルリはすずの頬を指で弾くと、鳥の姿となり、飛んでいく。
「あのー!! コルリ!! コルリってば…!!」
すずはまだ用があったらしいが、コルリは無視して飛んでいく。
すると今度は興奮した子どもの声が聞こえてくる。
ーさっきの子どもか。うん?
手に何か持っているようで、近づいていくと、少年が笑って近づいてくる。
「天使さん!! やったあ!! 来てくれた!!」
「何だ? 何の用だ?」
「あのね、お礼。助けてくれたお礼」
ビスケットを持っており、1枚、差し出してくる。
コルリは迷った末に、いただく。
「…うん、美味しいな」
「たくさん食べてもいいよ」
「駄目。お前のおやつだろう? ゆっくり食え」
コルリは1枚、食べ終わると、指をなめる。
その動作は魅力的で、太陽がコルリを呼ぶように、背中が熱くなる。
「じゃあな。もう1人でベランダに出るなよ」
「え…!! もう行っちゃうの!!」
「私のことは内緒な。じゃあな」
ベランダから飛び立つと、少年が「また来てねー!!」と叫んでくる。
悪い人間ではないので、一応、覚えてやるかと思いつつ、コルリは自由に飛んでいく。
ー気持ちがいい。
風の吹く方向に身を任せていくと、色んな人間が見えてくる。
買い物から出てきた者、病院から暗く出てきた者、様々だった。
コルリは飽きることなく、見ていく。
ー人間は誰にも見られていないと油断しがちなんだけれど、ちゃんと私達が見ているんだよな。
無防備は命を落とすことになるのだが、毎回、コルリが助けるわけにはいかなかった。
ーそれと、私の名前はコルリじゃないし。
コルリとは人間がつけた鳥の名前で、本当の名前は内緒だった。
ーさて、次はどこに行こうか。
コルリは翼を広げると、ぐんと上昇し、雲の中へ姿を消したのだった。




