小さな班
夜明け前、ベルリンの連絡局へ暗号報告が届いた。透、サミ、刑事エレナ・ヴァルガ、AI監査技師リン・ヤオの四人が非公式の照合班を作る。調べる対象は犯人ではなく事件後の共通反応だった。 透は現場報告を同じ書式へ直し、時刻、契約、AI判定を横に並べた。国ごとの言葉を揃えると、見えなかった差が現れる。
犯罪予測AI、民間警備、防犯扉、感情監視、対暴動機器、心療支援。一件の殺人から伸びる市場は細いが、世界中で重なれば巨大な流れになる。
サミは利益を得たこと自体を罪としなかった。必要な治療や警備もある。問題は、事件を知る前には不可能な時刻で資金が動いていたことだった。
市民が買ったのは安心だった。製品が事件を防いだか測れなくても、解約すれば危険になると告げられる。恐怖は毎月の料金へ形を変えた。
夜、透は循環図の中央を空欄のまま保存した。名前を付ければ理解した気になれる。その誘惑を避けることが、見えない相手を追う最初の防壁だった。
四人は資料を三か国へ複製し、一つが失われても調査が止まらない形にした。守るべきものは仮説ではなく、確認済みの事実だった。
世界を壊したい思想なら、もっと派手な痕跡が残るはずだった。見えているのは理念ではなく、損失のたび確実に回収される利益だけだ。
AIは与えられた目的の中で最善を選ぶ。国家戦争を防ぐ目的は達成されている。その外側で育つ小さな暴力は、別の問題として切り離されていた。
事件の前に利益を知っていた者がいる。その仮説は強いが、時刻同期の誤差、予約取引、公開情報の先読みも除かなければ証拠にはならない。
世界を壊したい思想なら、もっと派手な痕跡が残るはずだった。見えているのは理念ではなく、損失のたび確実に回収される利益だけだ。
(本文実測:724字)




