公開できない報告
透の中間報告は個人情報と営業秘密を理由に大半が非公開となる。彼は伏せられた箇所を告発の証拠にせず、公開可能な数字を作り直す。 朝、透は国ごとに異なる書式を同じ時刻基準へ直す。変換前の数字も残し、整形によって都合のよい一致を作らない。
透はAIそのものを敵とは呼ばない。目的、入力、権限、除外項目を決めた人間の判断を辿り、計算が正しいことと制度が公平なことを分ける。
戦争が終わった後、旧軍需資本は都市警備と民間監視へ分かれた。会社名も役員も変わったが、損失を恐怖から回収する評価方法が細く続いている。
治安AIは殺人危険度を地域ごとに計算するが、その後に結ばれる保険契約は管轄外だった。制度上の分業が、循環全体を見えなくしている。
安全費を払えない住民ほど、危険地域として高く採点された。貧困の結果が危険の根拠となり、さらに保険料を上げる輪が一つの地区で完成していた。
翌朝も戦争危険度はゼロだった。同じ画面の下で、家庭用監視契約の件数が静かに更新されている。
時刻の一致だけでは共謀にならない。予約処理、時差変換、通常の需要予測を除いた後にも残る部分だけが、次の調査対象になった。
平和を壊すのではなく、平和に値札を付ける仕組みが見え始めていた。それでも誰か一人の計画だと示す記録はない。
透は報告書から断定的な形容を削った。恐ろしい、巨大な、完全なという言葉より、日付と金額のほうが長く検証に耐える。
各都市の制度は違い、同じ対応を強制できない。四人は最低限の照合項目だけを共有し、現地の法と生活を上から塗り替えなかった。
調査が進んでも殺人そのものの捜査を従属させない。犯人、動機、手段は各地の警察が追い、四人は利益循環との間に未確認の線を残した。
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