保険の更新
事件の六時間前、複数の保険会社が都市危険度を同時に更新していた。参照した民間データの提供元だけが再委託の先で途切れる。 朝、透は国ごとに異なる書式を同じ時刻基準へ直す。変換前の数字も残し、整形によって都合のよい一致を作らない。
透はAIそのものを敵とは呼ばない。目的、入力、権限、除外項目を決めた人間の判断を辿り、計算が正しいことと制度が公平なことを分ける。
戦争が終わった後、旧軍需資本は都市警備と民間監視へ分かれた。会社名も役員も変わったが、損失を恐怖から回収する評価方法が細く続いている。
治安AIは殺人危険度を地域ごとに計算するが、その後に結ばれる保険契約は管轄外だった。制度上の分業が、循環全体を見えなくしている。
安全費を払えない住民ほど、危険地域として高く採点された。貧困の結果が危険の根拠となり、さらに保険料を上げる輪が一つの地区で完成していた。
答えは出なかった。それでも、別々の制度に閉じられていた記録が同じ机へ残り、次の照合を始められる。
各都市の制度は違い、同じ対応を強制できない。四人は最低限の照合項目だけを共有し、現地の法と生活を上から塗り替えなかった。
調査が進んでも殺人そのものの捜査を従属させない。犯人、動機、手段は各地の警察が追い、四人は利益循環との間に未確認の線を残した。
反対意見は循環図の外へ捨てず、同じ大きさの欄へ残した。後で仮説が崩れた時、どこから組み直せるかを示すためだった。
時刻の一致だけでは共謀にならない。予約処理、時差変換、通常の需要予測を除いた後にも残る部分だけが、次の調査対象になった。
平和を壊すのではなく、平和に値札を付ける仕組みが見え始めていた。それでも誰か一人の計画だと示す記録はない。
(本文実測:717字)




