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終末のネクロマンサー  作者: あああ
ネクロマンサー狩り
9/72

009

夜は静かだった。

 焚き火の火が、小さく爆ぜる。

 森の奥では、虫の声と、遠い獣の足音だけが響いていた。

 ――ザイデル=モルテス。

 その名を、俺は胸の内で反芻する。

 口に出すことはない。

 あの狂人の名を、世界に残す価値はない。

 だが、俺の中では刻まれる。

 ――これで、七人目。

 討った数を数えるたび、

 胸の奥に冷たい感覚が積み重なっていく。

 誇りでもなく、

 満足でもなく、

 ただの“事実”として。

 リリアは焚き火の向かいに座り、

 小さな鍋をかき混ぜながらちらりと俺を見た。

「……さっきの人、

 やっぱりネクロマンサーだったんですよね」

「ああ」

「クロウさんは……

 どうして、ネクロマンサーばかりを狙っているんですか?」

 火が、ぱちりと音を立てる。

 俺はすぐには答えなかった。

「……ネクロマンサーは、危険だからだ」

 半分だけ、本当の答え。

「放っておけば、

 死体を増やし、

 魂を縛り、

 いずれ街ひとつを壊す」

 嘘ではない。

 だが、理由の核心ではない。

「だから……討つ」

 それだけを言った。

 リリアは膝の上で指を絡める。

「でも……

 ネクロマンサーにも、いろんな人がいるんですよね」

 俺の胸の奥が、かすかに疼いた。

「さっきの人は……明らかに狂っていましたけど……

 でも、クロウさんは、怖い人じゃないです」

 その言葉が、痛かった。

「……優しさで、死体を操ることはできない」

 俺は低く言う。

「俺がやっているのは、

 正しいことじゃない」

「でも、命を救っています」

 リリアの声は、静かだったが、まっすぐだった。

「今日も、村の人たちを守りました」

 俺は焚き火を見つめたまま、言葉を選ぶ。

「……昔、守れなかった」

 ぽつりと漏れた。

 リリアの視線が、強くなる。

「家族を……失ったんですか?」

 胸の奥が、締めつけられる。

 俺は頷いた。

「父と、母だ」

 そこまでは、本当だ。

「俺は……何もできなかった」

 それも、本当だ。

「だから、もう二度と、

 “無力な側”に立たないと決めた」

 ――ここまでが、語れる限界だった。

 言えないことがある。


 焚き火の背後で、

 二つの影が静かに揺れた。

 父の剣。

 母の槍。

 縁の干渉によって、少しずつ成長していくネクロマンス体。

 俺はそれを、見ないふりをする。

 リリアは少し黙り、やがて小さく笑った。

「……クロウさん、

 全部は話してくれないですね」

「話せないこともある」

「それでもいいです」

 彼女は焚き火に視線を落とす。

「いつか、話してくれるって……信じてますから」

 胸の奥に、罪悪感が刺さる。

 ――信じられる資格は、ない。

「明日、街に入る」

「ヴァルグレイ、でしたよね?」

「ああ」

 灰境の街。

 ネクロマンサーの噂が絶えない場所。

 そして――

 八人目に繋がる可能性が高い街。

 夜は深くなり、

 焚き火は静かに燃え続けた。

 ザイデル=モルテスの名を胸に刻んだまま。

 七人目の死を背負いながら。

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