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終末のネクロマンサー  作者: あああ
死霊王国
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音は、まだ鳴っている。

 太鼓。

 笛。

 骨の擦れる音。

 だが――

 もう、届かない。

 世界は、糸の集合体だ。

 絡まり、結ばれ、縫い止められた構造。

 音も、感覚も、死者も、生者も。

 すべてが「縁」でできている。

 アルベルト。

 セレスティア。

 二人の縁は、俺の背後で巨大な錨のように沈んでいる。

 深く、重く、壊れない。

 視線を上げる。

 ローデリヒ。

 狂った指揮棒。

 乱れた行進。

 エルシア。

 地面に膝をつき、

 無数の死の感覚に溺れている。

 俺は、命令を出さない。

 ただ、縁をなぞる。


 アルベルトが動く。

 静かに。

 無音で。

 剣が振るわれる。

 屍兵の群れの中を、

 縁だけが崩れる。

 肉体は後から崩壊する。

 砂のように。

 セレスティアが跳ぶ。

 槍が円を描く。

 行進隊の中心を貫き、

 音を支える縁を切断する。

 太鼓の音が、ひとつ消える。

 ローデリヒの拍子が、狂う。

「な……に……?」

 彼の心拍が、逆に乱れ始める。

 指が震える。

 エルシアの能力も、不安定になる。

 死者の感覚が逆流し、

 彼女自身を締め上げる。

「……もう……いや……」

 それでも、終わらない。

 音は残る。

 縁は、まだ繋がっている。


 視線が、

 ローデリヒの背後へ行く。

 見える。

 彼の縁。

 屍兵たちと繋がる無数の糸。

 その中の、

 一本だけ。

 細く、だが強固な縁。

 左腕の屍兵部隊を統括する束。

 剣を構えない。

 術式も組まない。

 ただ、

 触れる。

 意識で。

 世界が、一瞬だけ軋む。

 自分の縁が、

 他人の縁へと――

 滑り込む感覚。

「……っ!?」

 ローデリヒの左腕が、跳ねた。

 勝手に。

 指が、逆方向へ折れ曲がる。

 同時に、

 左側の屍兵たちが、

 一斉に硬直した。

 太鼓を落とし、

 笛を取り落とし、

 隊列が崩壊する。

「なにを……した……?」

 ローデリヒの声が、震える。

 俺も、分かる。

 これは、まだ不完全だ。

 ほんの一瞬。

 ほんの一本。

 屍腕ひとつ、奪っただけ。

 だが――

 他人の死霊術の縁に、干渉した。

 奪った。

 支配ではない。

 破壊でもない。

 侵入。

 接続。

 ジャック。

 頭が、割れるように痛む。

 視界が白くなる。

 能力が、拒絶している。

 器が、まだ足りない。

 だが、結果は出た。


 ローデリヒが後退る。

「……怪物……」

 行進は止まる。

 音楽は崩壊する。

 エルシアは地面に倒れ、

 ただ呼吸している。

 アルベルトとセレスティアが、

 俺の前に戻る。

 鎧はひび割れ、

 縁は、さらに重く沈んでいる。

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