068
王都の凱旋広場は、昼でも薄暗い。
屍兵の隊列。
見物する市民。
王の旗。
死と生が、同じ石畳に立っている。
「……妙ですね」
リリアが言う。
「今日は、処刑でもないのに」
俺も感じていた。
縁が、揺れている。
空気ではなく、もっと内側。
そのとき。
ドン。
低い音。
太鼓だ。
ドン、ドン、ドン。
胸が、わずかに跳ねる。
「……?」
次に、笛。
金属音。
骨を削ったようなラッパ。
音楽。
行進曲。
だが――
心臓が、勝手に合わせ始める。
ドン、ドン、ドン
ドン、ドン
「……っ」
胸を押さえる。
脈が、ずれる。
速くなり、遅くなり、また速くなる。
「クロウさん……」
リリアの声が震える。
「……胸が……変です……」
周囲を見る。
市民たちが、立ち止まっている。
次の瞬間。
何人かが、倒れた。
痙攣。
白目。
泡。
だが、全員じゃない。
立っている者たちは――
笑っている。
不自然な笑顔。
空虚な目。
揺れる身体。
音楽に合わせて、歩き出す。
こちらへ。
「……来るぞ」
生者だ。
武器も持っていない市民。
老人。
子供。
女。
だが、目が死んでいる。
心拍が、完全に支配されている。
広場の中央。
屍兵の軍楽隊が整列する。
太鼓は、胸郭。
笛は、指の骨。
ラッパは、頭蓋骨を削ったもの。
そして、その前に立つ男。
痩せた体。
燕尾服。
白い手袋。
指揮棒。
穏やかな笑顔。
「ようこそ」
深々と一礼。
「王の第三側近」
「マエストロ・ローデリヒ」
「死の行進曲の作曲者です」
指揮棒が振られる。
ドン。
心臓が跳ねる。
強制的に。
市民たちが、一斉に走り出した。
「……逃げろ、リリア!」
剣を抜く。
だが、斬れない。
生きている。
操られているだけの人間だ。
ローデリヒは楽しそうに言う。
「美しいでしょう」
「死者だけでなく」
「生者も楽器になる」
「心臓は、最高の太鼓です」
指揮棒が、さらに速く振られる。
心拍が暴走する。
広場の端で、男が倒れた。
胸を掻きむしりながら。
別の女が、血を吐いて倒れる。
「……不整脈を起こしている」
リリアが、苦しそうに膝をつく。
「……このままじゃ……」
ローデリヒが微笑む。
「あなたたちも、曲の一部です」
「逃げても無駄」
「鼓動がある限り」
「私の楽団員です」
広場は、地獄になった。
音楽とともに。
死者と生者が混ざり合い、
一つの行進隊になる。




