066
剣先が、止まっていた。
子供たちの魂が盾のように浮かぶ。
淡い光。
震える縁。
「ほら」
エーレンが微笑む。
「君は斬れない」
その瞬間だった。
背後で、空気が軋む。
鎖が鳴るような、低い音。
「……?」
振り向くより早く、
二つの影が前に出た。
アルベルト。
セレスティア。
本来なら、命令なしには一歩も動かないはずの骸。
だが今、
二人は俺を追い越していた。
「……父?」
「……母?」
エーレンが目を細める。
「自律行動か」
「ずいぶんと、深く縛っているらしい」
アルベルトは剣を構える。
だが、子供たちの魂には刃を向けない。
代わりに――
踏み込む。
魂の壁を“避けて”。
縁の隙間を縫って。
不可能な角度から。
剣閃。
エーレンの脇腹が裂けた。
「……っ!?」
血が飛ぶ。
肉体の血だ。
魂の瓶には、ひび一つ入らない。
続けてセレスティア。
槍を低く構え、
魂の盾の“下”を滑らせるように突く。
教授の肩を貫通。
骨が砕ける音。
子供たちの魂は、無傷。
悲鳴だけが震える。
「……き、さま……!」
エーレンの顔が歪む。
穏やかな仮面が砕ける。
「道具が……!」
「道具のくせに……!!」
叫びと共に、瓶が激しく揺れる。
地下室全体が軋む。
「私の管理物だぞ!!」
「魂は番号で!」
「年齢で!」
「価値で分けるものだ!!」
完全に、理性が崩れた。
アルベルトとセレスティアは戻ってこない。
再び構え、
子供たちの魂を避ける位置取りをする。
まるで――
生前と同じように。
俺の前に立ち、
守るように。
胸が、焼ける。
「……やめろ」
小さく呟く。
誰に向けた言葉か分からない。
エーレンは血を吐きながら叫ぶ。
「殺せ!!」
「魂ごと切り裂け!!」
「それがネクロマンサーだろうが!!」
違う。
俺は。
あいつらとは。
違う。
両親の骸が、静かに一歩前に出る。
再び、教授へ。
命令は出していない。
それでも、彼らは動く。
子供を守るために。
俺を守るために。
――そして。
人だった頃の意志のままで。




