062
夜明け前の王都は、さらに異様だった。
眠らない屍兵。
祈る生者。
死体を積んだ荷車。
それらが同じ通りを行き交う。
「……いる」
確信があった。
幼い魂を集めていた側近。
国外を回っていた男。
だが今は、この国に戻っている。
王都の縁が、そこだけ異様に歪んでいる。
術式を、弱く展開する。
街全体が糸の森に変わる。
王城。
軍営。
処刑場。
地下墓地。
そのどれでもない。
縁は、王都の南。
貧民街のさらに外れ。
孤児院跡地。
「……最悪だな」
リリアが息を呑む。
「子供……」
「ああ」
胸の奥が冷たく固まる。
怒りよりも、先に嫌悪が来る。
建物は半壊している。
屋根は落ち、壁は黒く焼け焦げている。
だが――
死の臭いが、濃すぎる。
「……まだ使っている」
中へ入る。
床には、小さな靴。
破れた絵本。
折れた木馬。
そして、
床下へ続く階段。
降りる。
空気が変わる。
冷たい。
湿っている。
魂の臭いがする。
円形の地下室。
壁一面に、ガラス瓶。
中には――
淡い光。
子供の魂。
数十。
いや、百を超える。
歯が、音を立てる。
「……ここか」
拍手が響く。
「素晴らしい感度だ」
柱の影から男が出てくる。
痩せた体。
白衣。
優しそうな顔。
司祭のような声。
「王の側近第二席」
微笑む。
「エーレン・ファルケ」
「魂の管理者だ」
リリアの背後で、瓶が震える。
中の光が、悲鳴のように揺れる。
「……子供を、集めていたな」
「“保護”していただけだよ」
穏やかな声。
「死ねば消える」
「だが、保管すれば」
「王国の未来になる」
吐き気がする。
「……やめろ」
「無理だ」
笑う。
「王は“永遠の国”を望んでいる」
「その礎が、彼らだ」
瓶の一つに手を置く。
「君の家族と、同じようにね」
世界が、赤く染まる。
剣を抜く。
「……父よ」
「母よ」
真名を呼ぶ準備をする。
エーレンは両手を広げる。
「縁を斬る死霊術師」
「ぜひ、その力を見せてほしい」
地下室の床に、巨大な術式が浮かび上がる。
魂の瓶が、一斉に光を放つ。
空気が、悲鳴で満ちる。
戦いは避けられない。
ここは、
子供たちの墓場。
そして――
王国の心臓の一つ。




