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終末のネクロマンサー  作者: あああ
死霊王国
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059

廃村で二日、身を潜めた。

 体の傷は塞がった。

 だが、内側の摩耗は残ったままだ。

 剣を握ると、まだ指が震える。

 夜。

 焚き火の前で、俺は術式を展開した。

 ごく弱く。

 呼び出すつもりはない。

 ただ――見るために。

 視界が歪む。

 世界の輪郭がほどける。

 そして見える。

 糸。

 線。

 絡み合う無数の「つながり」。

 死体と術者。

 魂と肉体。

 記憶と未練。

 世界と存在。

 すべてが、縁で縫い止められている。

「……これが」

 呟く。

「俺の見ているものか」

 草の上に転がる、小さな動物の骨。

 そこにも細い縁が残っている。

 自然に還りきれなかった痕跡。

 俺は剣を抜き、そっと振る。

 能力を、ほんの一筋だけ乗せる。

 空を斬ったはずなのに、

 糸が、切れる音がした。

 骨は、さらさらと崩れ、

 ただの土に戻った。

 魂の痕跡も、ない。

「……消えた」


 胸が重くなる。

 アルベルト。

 セレスティア。

 二人の縁は、見なくても分かる。

 太い。

 絡まり合い、

 幾重にも巻き付き、

 俺の心臓にまで繋がっている。

 普通の死霊術師なら、こうなる。

 魂を縛る。

 命令する。

 使い潰す。

 だが俺の能力は違う。

 縁そのものを斬れる。

 完全に断てば、

 魂は解放され、

 どこへでも行ける。

 輪廻か、消滅か、それとも別の場所か。

 それは分からない。

 だが一つだけ確かなことがある。

 斬れば、二度と戻らない。

「……簡単なことじゃないな」

 強くなればなるほど、

 縁は太くなる。

 俺が成長するほど、

 両親はより深くこの世界に縫い付けられる。

 救う力と、縛る力が、

 同時に育つ。

 最低の才能だ。


 リリアが隣に座る。

「切れるんですね……その、縁」

「ああ」

「他人のなら、もう迷わない」

「……ご両親は?」

 答えるまで、時間がかかった。

「切れる」

「だが……」

「切った瞬間、俺はたぶん」

「二度と、立ち直れない」

 正直な気持ちだった。

「だから今は」

「斬る剣でありながら、斬らない」

「矛盾したまま、生きている」


 地図を広げる。

 ヴェルケン王国の位置。

 王都。

 軍勢の進路。

 側近の支配区域。

「……王を斬る時」

 呟く。

「まず切るのは、命じゃない」

「縁だ」

「軍勢と」

「四人と」

「この国と」

「王自身を繋いでいる縁を」

 それができなければ、

 殺しても終わらない。

 リリアが静かに言う。

「……戻れますか」

「分からない」

「でも」

 剣を握る。

「終わらせる方法は、これしかない」

 焚き火が、音を立てて爆ぜた。

 死霊王国ヴェルケンは、まだ遠い。

 だが――

 斬るべき糸は、もう見えている。

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