058
しばらく、言葉が出なかった。
火の残りを見つめたまま、口を開く。
「……二十年前」
「俺は八歳だった」
「弟は、五歳」
「家族四人で……普通に暮らしていた」
喉が鳴る。
「突然、ネクロマンサーが来た」
「家に入ってきて」
「父と母を殺して」
一拍。
「弟を……連れていった」
拳を、強く握る。
「俺は……家具が倒れてできた隙間に、隠れていただけだ」
「助かったんじゃない」
「……ただ、見逃された」
「弟の遺体だけが、消えた」
ここで、言葉が止まる。
胸の奥が、焼ける。
「……その時だ」
声が低く、濁る。
「両親の死体を見た瞬間」
「弟の血を見た瞬間」
「頭の中で、何かが壊れた」
「叫びたかった」
「死にたかった」
「全部、消えてほしかった」
「その時……」
唇を噛む。
「死霊術が、開花した」
リリアの息が止まる。
「無意識だった」
「術式も、理屈も、知らなかった」
「……ただ」
「両親の“魂”を」
「この世界に、引き留めてしまった」
指先が震える。
「死なせてやれなかった」
「送ってやれなかった」
「俺が……」
「縛った」
沈黙。
「ネクロマンサーに家族を殺されて」
「ネクロマンサーになって」
乾いた笑い。
「……皮肉だろ」
視線を落とす。
「それ以来だ」
「ネクロマンサーを狩り始めたのは」
「復讐だ」
そして、小さく。
「……取り戻すためでもある」
「弟を」
「奪われた、亡骸を」
廃村の外で、風が鳴る。
二十年前の夜は、
まだ終わっていない。
魂の鎖と一緒に、
今も続いている。




