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終末のネクロマンサー  作者: あああ
死霊王国
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055

押し寄せる屍兵。

 砕いても、倒しても、また立ち上がる。

 骨が擦れる音が、波のように重なる。

「……きりがない」

 呟いた瞬間、胸の奥がひどく歪んだ。

 怒りでも、恐怖でもない。

 諦めと嫌悪と、自己否定が、絡まって沈んでいく。

 ――まただ。

 ――また、俺だけが生きている。

 ――両親を縛って、戦わせて。

 ――死者を利用して、時間を稼いでいる。

 その思考が、術式を押し広げた。


 視界が、二重に揺れる。

 屍兵の輪郭が、奇妙な糸で縫い合わされているのが見えた。

 地面へ。

 草へ。

 遠くの丘へ。

 縁。

 死者と術者。

 死者と死体。

 死者とこの世界。

 それらを繋ぐ、無数の線。

「……見える」

 アルベルトの剣が振り下ろされる。

 刃が屍兵の胴を断つ。

 その瞬間――

 剣身に、俺の術式が走った。

 黒い紋様が刃を這い、

 不可視の糸を、同時に断ち切る。

 屍兵は倒れ、

 ――二度と動かなかった。

 砂のように崩れ、

 魔力の残滓すら残さず、消える。

「……復活、しない」

 リリアが息を呑む。


 セレスティアの槍が突き出される。

 貫かれた屍兵の頭部から、

 同じ黒い紋様が走り、

 縁ごと、引き裂かれる。

 一体。

 二体。

 三体。

 倒された屍は、戻らない。

 術者との接続が、完全に断たれている。


 胸が痛む。

 肺が焼けるように熱い。

 頭の奥で、何かが軋んでいる。

 分かっている。

 死霊術は、心の歪みを燃料にする。

 後悔。

 憎悪。

 自己嫌悪。

 孤独。

 それらが深いほど、術は鋭くなる。

「……また、歪んだな」

 自嘲が漏れる。

 だが、止めない。


「父よ、左を」

「母よ、前列を貫け」

 アルベルトとセレスティアが動く。

 剣と槍が、ただの武器ではなくなる。

 縁を断つ刃。

 存在そのものを終わらせる穂先。

 屍兵が次々と消滅する。

 千の軍勢に、ようやく穴が空き始める。


 丘の上の黒衣の男が、動揺する。

 指の動きが乱れ、

 軍勢の隊列が歪む。

「……面白い術だな」

 風に乗って、声が届く。

「王に報告する価値がある」

 俺は血を吐くように言う。

「次は……お前の縁を斬る」

 黒衣の男が、薄く笑った。

 遅滞戦は、

 消耗戦から、狩りへ変わりつつあった。

 だが同時に、

 俺の中の“何か”も、確実に削れている。

 強くなるほど、

 人間から遠ざかる。

 それでも剣を振るう。

 それでも術を使う。

 守るために。

 止めるために。

 そして――

 終わらせるために。

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