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終末のネクロマンサー  作者: あああ
死霊王国
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049

ヴェルケン王国の国境は、

 予想よりも質素だった。

 高い城壁はない。

 重苦しい聖印もない。

 あるのは、

 木製の検問所と、

 簡素な柵だけだ。

 馬車が止められる。

 鎧を着た兵士が近づく。

「目的は?」

「通過と滞在だ」

 兵士は書類を受け取り、

 淡々と目を通す。

「……職業は?」

 リリアが一瞬、緊張する。

 俺は答える。

「旅人だ」

 嘘ではない。


 兵士は俺の顔をじっと見つめる。

 そして――

 笑った。

「ようこそ、ヴェルケン王国へ」

「滞在は自由だ。

 困ったことがあれば、

 役所に相談するといい」

 疑いはない。

 敵意もない。

 迫害の色もない。

 むしろ――

 歓迎だ。

 胸の奥が、ざらつく。

 ――ここでは、

 ネクロマンサーは

 “罪”ではないのか?


 門をくぐった瞬間、

 死の臭いが濃くなる。

 隠されていない。

 遠ざけられてもいない。

 すぐそばにある。

 腐臭ではない。

 不快でもない。

 ただ、

 生と並んで存在している匂いだ。

「……近いな」

 思わず呟く。

 リリアも顔をしかめる。

「ここ……

 死が遠くありませんね」


 街道沿いの村に入る。

 活気はある。

 商人の声。

 市場のざわめき。

 笑う子供たち。

 だが――

 光景がおかしい。

 骨だけになった犬が、

 子供たちの足元を走り回っている。

 尻尾の骨を揺らしながら、

 楽しそうに。

「待てー!」

「ほら、ボーン!

 そんなに走ると壊れるよ!」

 子供たちは笑っている。

 恐れていない。

 嫌悪していない。

 ――そして、

 ネクロマンサーでもない。

 ただの子供だ。

 ただの住民だ。


 露店の前を通る。

 肉屋の裏には、

 骸骨の荷運び人が立っている。

 農夫は、

 土に埋めた腕を掘り起こし、

 畑を耕す骸を使っている。

 人々は、

 それを道具としてではなく、

 生活の一部として扱っている。

「ありがとうね」

「助かるよ」

「あとで花を供えるから」

 感謝の言葉さえある。


 胸の奥が、ざわつく。

 ここには――

 迫害がない。

 だが、

 敬意とも違う。

 死を恐れず、

 嫌悪せず、

 ただ“共存”している。

「……気味が悪い」

 正直な感想が漏れる。

 リリアも小さく頷く。

「でも……

 虐げられてはいませんね」

「ああ」

「だが、

 これは別の歪みだ」


 露店の老婆に尋ねる。

「……怖くないのか?」

 老婆は笑う。

「何が怖いのさ?」

「死は裏口じゃない。

 うちの隣にある部屋だよ」

「大事なのは、

 “縛るかどうか”さ」

「奪わなければ、

 使ってもいい」

 言葉が、

 胸に刺さる。


 ――迫害されない世界。

 ――ネクロマンサーが統治する国。

 ――死と生が並ぶ日常。

 ここには、

 俺の知る“常識”がない。

 それでも――

 安らぎではない。

 救いでもない。

 ただ、

 新しい問いが生まれる。


 俺は歩きながら呟く。

「……ここが答えだとは思えない」

「だが、

 無視もできない」

 ネクロマンサーの国。

 それは楽園ではない。

 だが、

 迫害だけが“正義”でもないことを

 突きつけてくる。

 この国は――

 俺の生き方を、

 揺さぶる場所になる。

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