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カーディナルを発ったのは、朝靄がまだ残る刻だった。
露に濡れた石畳。
軋む車輪。
門を抜けると、街の音は急に遠のく。
背後にあるのは、
迫害の街。
静かで、整っていて、
そして冷たい場所。
俺は振り返らない。
振り返る理由も、
惜しむ理由もない。
馬車が揺れる。
木製の座席。
粗末な荷台。
長旅には向かない。
だが、慣れている。
街道は広い。
だが、進むほどに人影は減り、
道は細く、荒れていく。
商隊の轍。
野盗の足跡。
道端に転がる壊れた箱。
死体はない。
――ここでは、
死もまた運ばれている。
胸の奥が静かに疼く。
死の匂いが薄い道ほど、
信用できない。
馬車の中は静かだ。
御者は口数が少ない。
リリアも、無理に話さない。
車輪の音だけが、
時間を刻む。
俺は手帳を取り出す。
黒く塗り潰された名。
消えない影。
そして、
新たに塗られた老人の名。
――エルン・ハルバード。
守れなかった名。
殺していないのに、
背負ってしまった死。
手帳を閉じる。
これ以上、
増えてほしくはない。




