表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のネクロマンサー  作者: あああ
ネクロマンサー狩り
44/72

044

夜明け前、街を出た。

 霧の残る街道。

 轍の跡は新しい。

 荷車の重みが、そのまま道に刻まれている。

「ここですね」

 リリアが小声で言う。

「ああ。

 死の“通り道”だ」

 護送隊の痕跡は整っている。

 血痕はない。

 争いの形跡もない。

 ただ――

 運ばれた“重さ”だけが残っている。

 俺は目を閉じる。

 縁の干渉。

 薄く残った死の気配を辿る。

 流れは、

 教皇庁の方角へ続いている。

「……やっぱり、

 本部に送られていますね」

「ああ。

 ここは“中継地”にすぎない」

 今回の黒幕は、まだ見えない。

 だが――

 構造だけは見えた。

「無理に踏み込む必要はない」

 俺は踵を返す。

「今は、街に戻る」


 街へ戻ったあと、

 俺たちは裏通りの小さな教会に立ち寄った。

 大聖堂ではない。

 石造りの、古びた祈りの場だ。

 扉の奥から、

 静かな声が聞こえる。

「……どうか、

 迷わぬように」

 中にいたのは、

 白髪の老人だった。

 背は曲がり、

 声は細い。

 祭壇の前で、

 名もなき死者のために祈っている。

 線香の匂い。

 だが――

 微かに、死霊術の残り香がある。

 俺は警戒を解かないまま言う。

「……あなたは?」

 老人はゆっくり振り返った。

 穏やかな目。

「ただの、

 慰霊を続ける老人ですよ」

「生きている者より、

 死んだ者と話す時間の方が長いですがね」

 ――ネクロマンサーだ。

 だが、

 敵ではない。


「この街では、

 あなたのような人間は嫌われる」

 俺が言うと、

 老人は苦笑した。

「ええ。

 “化け物”扱いです」

「それでも、

 誰かが弔わねばならない」

 祭壇の前には、

 名もなき墓標の札が並んでいる。

「死体は街の外へ送られます。

 だからここには“遺体”が残らない」

「……それでも魂は残る」

 老人の指先が震える。

「私は奪いません。

 縛りません。

 ただ、

 送り出すだけです」

 胸の奥が、わずかに痛んだ。


「……それでも、

 ここでは生きづらいでしょう」

 リリアが尋ねる。

「ええ」

 老人は頷く。

「ネクロマンサーだと知られれば、

 縛り首です」

「だから私は、

 “ただの変わり者の老人”として

 生きています」

 恐怖ではない。

 諦めでもない。

 受容だ。


 俺は核心を突く。

「死体は、

 どこへ送られている?」

 老人は少しだけ視線を伏せた。

「教皇庁の管轄へ。

 表向きは“研究と保全”」

「だが実際は……

 還ってきません」

 ――やはり、だ。

「この街は、

 死を手放している」

「そして、

 その先で“何か”が積み上がっている」


 教会を出る前、

 老人が静かに言った。

「若いネクロマンサーよ」

「あなたは、

 “奪う者”ですか?」

「それとも、

 “送る者”ですか?」

 俺は答えない。

 答えられない。

 ただ扉を開け、

 外の光へ出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ