043
カーディナルの門をくぐった瞬間、
胸の奥にまとわりついていた“死の湿り気”が薄れた。
――聖気が強いわけじゃない。
ただ、
死が整理されすぎている。
通りは活気に満ちている。
露店の呼び声。
焼き菓子の甘い匂い。
革製品を並べる商人たち。
子供の笑い声。
どこにでもある、
平和な街だ。
だが――
不自然なほど“死の話題”がない。
俺たちに向けられる視線がある。
露骨ではない。
だが、温度が低い。
とくに、
俺を見る目だけが硬い。
リリアが小声で言う。
「……やっぱり、
ここも“そういう目”ですね」
「ああ。
ネクロマンサー狩りの街だ」
この国は教皇国ではない。
だが、迫害の空気は濃い。
“聖”ではなく、
“恐怖”で統制している街だ。
俺たちは交易区へ向かう。
死体の流れを追うには、
金と口が必要だ。
香辛料を扱う中年商人に声をかける。
「最近、
隣国との取引は?」
商人は警戒しながらも、
貨幣を見ると態度を和らげた。
「増えてますよ。
木材、布、薬草……
あと、“冷蔵箱”も」
「冷蔵箱?」
「ええ。
中身は聞かないのが商人の流儀ですがね」
死体輸送用の箱だ。
確信が強まる。
「行き先は?」
「街道の東。
検問所を越えた先で、
別の商会が引き取ります」
――死は、
この街を“通過”している。
通りを歩きながら、
俺は違和感を整理する。
事故死の噂がない。
行き倒れの話もない。
貧困はあるのに、
死だけが目立たない。
まるで――
死体だけを街の外へ流しているようだ。
リリアが眉をひそめる。
「人はいるのに、
“死者の居場所”がありません」
「ああ。
だから臭いが薄い」
死は、
隠すほど濃くなる。
ここは逆だ。
徹底的に“排除”している。
酒場でさらに情報を集める。
酔った労働者が吐き捨てる。
「最近は、
ネクロマンサーの噂が出ただけで大騒ぎだ」
「昔はいたらしいがな。
今は見つけ次第、縛り首だ」
笑い声。
拍手。
死霊術師の死を娯楽にする空気。
胸の奥が冷える。
――ここは、
“聖”ではなく、
“憎悪”で秩序を保つ街だ。
宿に戻り、
地図を広げる。
「交易路は東」
俺は指でなぞる。
「検問所を越えた先に、
“引き取り先”がある」
リリアが静かに言う。
「……また、
戦いになりますか?」
俺は答える。
「戦いにならない場所なら、
最初から追わない」
それは強がりではない。
生き方の問題だ。




