042
街道は整備されている。
車輪の轍。
商人の足跡。
旅人の声が、まだ残っている気がする。
だが――
どこか軽すぎる。
死の重みが、薄い。
俺とリリアは馬車に乗る。
御者は寡黙な中年の男。
余計なことを聞かない、いい仕事人だ。
「……カーディナルへ?」
男が確認する。
「ああ」
「最近は物騒ですよ。
あの街は“綺麗すぎる”」
綺麗すぎる。
嫌な言い方だ。
だが、的確でもある。
馬車が走り出す。
木々が流れ、
空が遠ざかり、
道が細くなっていく。
しばらく沈黙が続いたあと、
リリアが小さく口を開く。
「クロウさん……」
「なんだ」
「カーディナルには、
本当に“何もない”かもしれません」
「……それでも行く」
「死体の交易路がある。
噂じゃない。
“流れ”がある」
死は、
人よりも正直だ。
隠されても、
必ず痕跡を残す。
進むほどに、
死の臭いがしなくなる。
獣の亡骸もない。
路傍の虫の死骸すら、少ない。
まるで――
死そのものを避けている道だ。
胸の奥が、わずかに疼く。
「……嫌な街だな」
思わず漏れる。
リリアが小さく頷く。
「でも、
だからこそ……
行くんですよね」
「ああ」
遠くに、城壁が見えてきた。
白い石。
聖印の刻まれた門。
空に伸びる尖塔。
清潔で、
秩序があり、
死の影が見えない街。
――それが、
いちばん信用ならない。
俺は手帳に触れる。
黒く塗り潰された、十の名。
消せない記憶。
「……次は誰だ」
答えはない。
だが、
街はもう目の前だ。




