004
森の奥は、昼間だというのに薄暗かった。
腐った葉と湿った土の匂いに混じって、**明確な“死の臭い”**が漂っている。
俺は足音を殺しながら進む。
「リリア、ここから先は来るな」
「で、でも……!」
「足手まといになる」
言い切ると、彼女は悔しそうに唇を噛みながらも、木陰に身を隠した。
――正解だ。
この気配は、まともな相手じゃない。
倒木の向こうに、異様な光景が広がっていた。
鹿。
狼。
人間。
バラバラの死体が、無理やり縫い合わされて一つの塊になっている。
関節の位置はめちゃくちゃで、骨は歪み、肉は裂けたまま。
それでも、“動いている”。
「……あは、あはははは……!」
高く、ひび割れた笑い声。
死体の山の上に、細身の男が座っていた。
ぼさぼさの髪、血で汚れた指先、異様に輝く瞳。
男は、こちらを見た瞬間に顔を歪めた。
「来た……来た来た来た……!」
嬉しそうに、拍手を打つ。
「匂いでわかるよ……君……
もう何人も“殺してる”ね?」
胸の奥が、わずかに冷える。
――看破された。
「三人……いや、四人?
ああ、違うな……もっとだ」
男は陶酔したように目を細める。
「同業狩り……いいねえ……最高だよ……!」
狂っている。
だが、ただの狂人じゃない。
“素”で狂っているタイプだ。
「お前は……環境で歪んだ連中とは違うな」
俺の言葉に、男は心底嬉しそうに笑った。
「わかる? わかるよね?
あいつらは“壊れた”だけなんだよ……
でもさ、僕は違う」
自分の胸を、爪で引っ掻く。
「生まれた時から、死体が好きだった」
恍惚とした声。
「泣き声より、断末魔のほうが綺麗だった。
人形より、死体のほうが可愛かった」
目が合う。
そこには、罪悪感も葛藤も存在しない。
純粋な嗜好。
純粋な狂気。
「君も、そうなれるよ?」
「ならない」
即答した。
「俺は、必要だから殺しているだけだ」
男は、首を傾げる。
「必要? 復讐? 使命? 正義?」
嘲るように笑う。
「つまらないねえ……
でも、君はもう“戻れない側”だよ」
指を鳴らした。
死体の塊が、一斉に蠢いた。
骨が軋み、筋肉が引き攣れ、無理やり前進してくる。
俺は短剣を抜く。
「ネクロマンサーを狩るネクロマンサー……
君、名前は?」
「……クロウ」
「いい名前だね。
じゃあ、覚えておくよ」
男は両腕を広げ、叫ぶ。
「殺し合おう、クロウ!
どっちが“本物の怪物”か、試そうじゃないか!」
俺は一歩踏み出し、影に触れた。
死体たちの背後に、別の“手”が浮かび上がる。
――既に葬った者たちの残滓。
男の目が、見開かれた。
「……ああ……やっぱりだ……
君の影、墓場みたいだね」
愉悦に満ちた声。
「最高だよ……
君は、僕の“最高傑作”になれる……!」
俺は低く告げる。
「ならない。
――お前は、ここで終わりだ」
死体の群れが、一斉に襲いかかってきた。




