032
レインフォールの商業区は、
昼になっても活気を失わなかった。
香辛料の匂い。
革袋に詰められた銀貨の音。
荷馬車の車輪が舗道を削る音。
金が動く街は、生きている。
俺たちは、
中規模の運送商会を訪れた。
遺体を運ぶなら、
**大商会ではなく、こういう“境界の業者”**が使われる。
応対に出てきたのは、
腹の出た中年の男だった。
「取引ですか?
それとも護衛の依頼で?」
「情報を買いたい」
俺は即答する。
男の眉がわずかに動く。
「情報にも、値段がありますよ」
銀貨を数枚、机の上に置く。
「最近、
“荷を伏せた輸送”が増えているはずだ」
男は表情を変えず、
だが視線だけが硬くなる。
「この街は健全です。
怪しい取引など――」
「死体だ」
遮るように言う。
空気が一瞬止まる。
「……随分、物騒な話だ」
「遺体は軽く、臭いが出る前に運べば“商品”と変わらない」
男の笑顔が、わずかに歪む。
さらに銀貨を置く。
「教皇領方面へ抜ける荷」
「検問を避けたルート」
「表向きは“薬品”や“献納品”の箱」
男の指が、
無意識に銀貨へ伸びる。
「……確かに、
妙な荷はあります」
「中身を見せない契約。
依頼主は名を出さない。
箱は軽いのに、扱いがやけに慎重」
「匂いは?」
「防腐処理の薬品で誤魔化している。
だが……
“生き物だった痕跡”は消えません」
男は地図を引き寄せる。
「この街を出て、
聖国家へ向かう検問街道を通る」
「途中で
小さな中継都市に寄る」
「そこから先は、
我々の管轄ではない」
俺は最後の銀貨を置く。
「依頼主の特徴は?」
商人は迷う。
金と、
危険の間で。
「……聖職者の随行がついていました」
「神父か?」
「それより上です」
「……司祭。
あるいは――
教皇庁の人間」
俺は銀貨を残し、立ち上がる。
「協力に感謝する」
男は苦笑した。
「この街で、
あなたのような客は珍しい」
「死体を探す人間なんて、
普通はいませんからね」
俺は振り返らずに言う。
「探しているのは、死体じゃない」
「死体を“運ばせている者”だ」
通りに出ると、
街の喧騒が戻ってくる。
リリアが小声で言う。
「……教皇庁、
本当に関係していそうですね」
「可能性は高い」
「でも、
今の私たちで踏み込むのは――」
「無謀だ」
即答する。
「だから、
もっと情報を集める」
レインフォールは今日も賑やかだ。
誰もが金を運び、
誰もが荷を運び、
その中に“人だったもの”が混じっているかもしれない。
だが、
この街はまだ血を流していない。




