031
馬車が門をくぐると、
街の音が一気に押し寄せた。
商人の呼び声。
荷車の軋む音。
金属と硬貨のぶつかる乾いた響き。
レインフォールは、生きている街だった。
露店には果実が並び、
香辛料の匂いが漂い、
子どもたちが笑いながら駆け回る。
人は多い。
金は巡っている。
死の気配は――
ごく自然な量だけ。
墓地の匂いも、
病人の匂いも、
貧民街の腐臭も。
異常な濃度はない。
「……普通の街ですね」
リリアが呟く。
「だからこそ、調べる価値がある」
俺は答える。
違和感が“ない”という違和感
術式を薄く展開し、
縁を辿る。
死者はいる。
霊も漂っている。
だが――
歪みがない。
魂は抑留されていない。
無理に縛られた痕跡もない。
ここには、
ネクロマンサー特有の爪痕は見当たらない。
俺は思い出す。
若き神父の術式。
死体を家具に加工し、操る能力。
もし、
二十年前に村を襲った犯人と同一なら――
父と母の遺体は、
道具として利用されていたはずだ。
だが、
あのときは違った。
父と母は使われなかった。
弄ばれもしなかった。
“捨てられた”。
結論は静かに落ちる。
「……別人だ」
口には出さない。
だが、確信している。
犯人は、
もっと“違う歪み”を持っていた。
死を嗜好としてではなく、
“目的”として扱う者。
あるいは――
“執着”のために使う者。
あのネクロマンサーは、
道具ではなく
“探し物”をしていた。
そして、
弟だけを持ち去った。
理由は、まだ不明だ。
リリアが歩きながら言う。
「……ここ、
本当に事件があるんでしょうか?」
「ない方がいい」
俺は即答する。
「だが、
“ない街”ほど、輸送拠点に向いている」
死体は目立たない場所を通る。
平穏な街ほど、
隠しやすい。
俺は街を見渡す。
「倉庫街を調べる」
「商人の流れを追う」
「検問の情報を集める」
「戦いはまだ先だ」
そう告げて歩き出す。
レインフォールは今日も賑やかだ。
誰もが金を数え、
未来を語り、
死のことなど気にも留めない。
だが俺は知っている。
“死体は、こういう街を通って運ばれる”
ということを。




