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終末のネクロマンサー  作者: あああ
ネクロマンサー狩り
28/72

028

祭壇の怪物が崩れ落ちる。

 骨が砕け、

 肉が裂け、

 聖具はただの残骸へと還る。

 だが――

 神父はまだ、笑っていた。

「……素晴らしい」

 血を吐きながら、

 それでも恍惚の色を浮かべる。

「だが――

 “本命”は、まだだ」

 彼の背後で、

 鉄が軋む音がした。


 祭壇の奥。

 隠し扉が開き、

 棺のような鉄の棺桶が姿を現す。

 内側には――

 無数の骨釘。

 人の歯。

 内壁に縫い付けられた皮膚。

「私の最高傑作だ」

「“生きたまま、死へ保存する棺”

 アイアンメイデン」

 鉄の処女が開く。

 “抱きしめる”ように。


 床から伸びた骨の鎖が、

 俺の足を絡め取る。

 引きずられる。

 引き寄せられる。

 鉄の扉が迫る。

 閉じれば、終わる。


「――クロウさん!!」

 背後から声。

 矢が飛ぶ。

 淡い光を帯びた矢が、

 鎖を撃ち抜き、

 聖魔術が骨を焼き切る。

 リリアが駆け寄る。

「下がって!

 アンデッドに……

 “聖”は効きます!」

 彼女の手から、

 淡い光が溢れる。

 祝詞。

 祈り。

 震える声。

 光が、

 アイアンメイデンの内側を焼く。

 だが――

 鉄は閉じようとする。


 骨の腕が掴む。

 胸を締め付ける。

 鉄の内側の釘が迫る。

 死の匂い。

 閉じ込められた魂の悲鳴。

 ――終わる。

 そう思った、その瞬間。


 命じていない。

 命令していない。

 だが――

 父の骸が、

 俺の前に滑り込む。

 剣で扉を受け止め、

 鎧が軋みながらも、

 鉄を押し返す。

 母の骸が、

 槍を突き立てて支える。

 釘が刺さる。

 鎧が貫かれる。

 それでも、退かない。

 ――命令はない。

 それでも、

 守っている。


 胸が締め付けられる。

「……やめろ」

 声が震える。

「俺は――

 お前たちを縛っているだけだ」

 それでも、

 骸は退かない。


 俺は歯を食いしばる。

「――制圧しろ」

 縁を引き絞る。

 術式を深く踏み込ませる。

 父の骸が踏み込み、

 母の骸が並び立つ。

 剣と槍が、同時に突き出される。


 神父は後退る。

「……ああ……

 やはり君は、芸術だ……」

 逃げ場はない。

 父の剣が、

 肩から胴を斬り裂く。

 母の槍が、

 胸を貫き、祭壇へ縫い止める。

 血が噴き、

 息が漏れ、

 笑みだけが残る。

「……もっと……

 死を……」

 言葉は、

 最後まで形にならなかった。

 槍が引き抜かれ、

 剣が振り下ろされる。

 神父の首が落ちる。

 完全な沈黙。

 ――ネクロマンサーの命は、ここで終わった。


 術式の核が失われ、

 鉄の処女が悲鳴を上げる。

 俺は縁を掴む。

 “結び目”を断ち切る。

 父の剣が振り下ろされ、

 母の槍が貫き、

 アイアンメイデンの核を粉砕する。

 鉄が裂け、

 呪いが砕け、

 魂が解放される。


 協会に静寂が戻る。

 父と母の骸は、

 ゆっくりと俺を見て――

 何も言わず、

 元の位置へ戻る。

 命令はない。

 感情も、ない。

 それでも――

 守った。

 俺は視線を逸らす。

「……ありがとう、とは言わない」

 言えない。

 言えば、

 自分の罪を肯定する気がしたから。

 リリアが、静かに言う。

「……でも、

 クロウさんは

 独りじゃないです」

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