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俺は、深く息を吐いた。
床に滴る血の匂い。
歪んだ祭壇の鼓動。
迫り来る“家具”の群れ。
――もう、隠す理由はない。
唇を開き、
声に出す。
「……来い」
掠れた声が、
協会に落ちる。
「父よ。母よ。」
一瞬の沈黙。
そして、
真名を呼ぶ。
「アルベルト。」
「セレスティア。」
その瞬間、
影が震えた。
床に伏していた影が、
引き剥がされるように持ち上がる。
黒い輪郭が固まり、
人の形を成し――
剣を携えた、父の影。
槍を構えた、母の影。
“名を与えられた骸”が、半ば現実へと踏み込む。
空気が、冷えた。
「……ほう」
神父が目を細める。
「血縁の真名解放。
禁忌の中でも、特に美しい」
「ご両親を、
今も縛っているのですね」
俺は答えない。
ただ、命じる。
「――斬れ」
アルベルトの影が踏み込み、
剣閃が走る。
セレスティアの影が回り込み、
槍が家具の核を貫く。
肉の椅子が裂け、
骨の棚が砕け、
祭壇が呻く。
協会は、
影と肉と骨の戦場と化す。
俺は、その背を見つめながら、
胸の奥で呟く。
――まだ終わらせない。
――この罪も、
――この力も。




