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終末のネクロマンサー  作者: あああ
ネクロマンサー狩り
23/72

023

夜の協会は、

 祈りの余韻だけを残して静まり返っていた。

 清め香の匂い。

 磨き上げられた床。

 整えられた聖具。

 そして――

 微かな“死の気配”。

「……ここだな」

 俺は小さく呟く。

 地下室へ続く扉を開けると、

 白布に包まれた遺体が

 いくつか安置されていた。

 数は少ない。

 街で消えている死体の量とは釣り合わない。

「やはり……通過点ですね」

 リリアが小声で言う。

「ああ。

 本命は別にある」

 振り返った、その時だった。


「――夜更けに、

 巡礼の方が何用でしょうか」

 若い神父が立っていた。

 穏やかな微笑み。

 丁寧な所作。

 非の打ちどころのない敬虔な態度。

「お詫びします」

 俺は静かに頭を下げる。

「魂のために祈りを捧げたく、

 つい足を踏み入れてしまいました」

「それは尊いお心です」

 神父は柔らかく微笑む。

「ですが、

 ここは関係者以外立ち入り禁止でして」

 声は穏やか。

 言葉も丁寧。

 だが――

 漂う死の匂いだけが、歪んでいる。


 俺の視線が、

 無意識に壁際へ向かう。

 そこにあったのは、

 古い鳩時計。

 次の瞬間。

 ――カチ、

 ――カチ、

 ――コトン。

 乾いた音とともに、

 小さな扉が開いた。

 中から飛び出したのは――

 黒い鳥の人形。

 ぎこちなく羽を動かし、

 首を振りながら

 時を告げる。


 俺は、

 それを見た瞬間、

 理解した。

 この時計は――

 木で作られていない。

 艶のある“木目”は、

 縫い合わされた人の皮膚。

 枠の厚みは、

 乾燥した肉。

 装飾の白は、

 削られた骨。

 ――人間の肉と骨で作られた、

 家具。

 胸の奥が、

 真っ黒に染まる。

 嫌悪。

 怒り。

 そして、

 自分への嫌悪。

 (……同じだ)

 (魂を縛る俺も、

 結局は――)

 だが、

 感情は表に出さない。


 神父は、

 穏やかな笑みを崩さない。

「……お気づきになりましたか」

「私、

 遺体を“役立たせる”のが趣味でして」

「神の創られた身体です。

 腐らせるより、

 形あるものとして残すほうが

 美しいと思いませんか?」

 敬語のまま。

 声も柔らかなまま。

 ――狂気だけが完璧に整っている。

「あなたは、

 ネクロマンサーだな」

「はい」

 即答だった。

「私は、

 人肉の家具を操る術を授かっております」

 指を鳴らす。

 時計の表皮が、

 わずかに脈打つ。

 鳥の人形が、

 生き物のように首を傾げる。

 棚。

 椅子。

 聖卓。

 “家具”が、静かに息づく。


 リリアが前に出る。

「……冒涜です」

「いいえ」

 神父は首を横に振る。

「奉仕です」

 視線が俺に戻る。

「あなたは、

 死を慰める側の方ですね」

「それとも、

 縛る側でしょうか?」

 胸の奥が、

 わずかに軋む。

 だが俺は、淡々と答える。

「ただの通りすがりだ」


「今夜はお引き取りください」

 神父は微笑む。

「争うつもりはありません。

 また、

 正式にお話ししましょう」

 背を向ける。

 扉を出る瞬間、

 背後で鳩時計が鳴った。

 人の肉でできた時計が。

 鳥の人形が、時を告げながら。

 胸の奥で確信する。

 この神父は、

 必ず“狩る”。

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