020
宿の薄暗い部屋で、
俺は新しい服に袖を通していた。
黒ではない。
血の匂いもしない。
白と灰を基調とした、
聖職者の旅装。
「……似合いませんね」
リリアが苦笑する。
「俺もそう思う」
鏡の中の自分は、
まるで別人だった。
ネクロマンサー狩り。
死に近い男。
その正体を覆い隠すための、
偽りの聖者。
「だが、これでいい」
俺は言う。
「聖国家では、
“死の匂い”は目立ちすぎる」
翌朝、
俺たちは国境行きの馬車に乗り込んだ。
車輪が回り、
街が遠ざかっていく。
「クロウさん」
揺れの中で、
リリアが静かに口を開く。
「ひとつ、
話してもいいですか?」
「構わない」
「……どうして、
私が聖魔術を使えるのか」
彼女は少し視線を伏せる。
「私、
聖国家の孤児院の出身なんです」
予感はあった。
だが、確信に変わる。
「小さいころ、
“神に選ばれた子”だって言われました」
「選別か」
俺は低く呟く。
「はい。
祈りを叩き込まれて、
聖句を暗記させられて、
……魔術の適性を試されました」
彼女の指が、
膝の上でわずかに震える。
「私は、
聖魔術だけが使えたんです」
「それで?」
「“役に立つ子”として育てられました。
治癒、浄化、
そして――
アンデッド対策」
俺は視線を逸らす。
「皮肉だな」
「……はい」
リリアは苦く笑う。
「ネクロマンサーを狩るための魔術を学んで、
今は、
ネクロマンサー狩りと旅をしているんですから」
「俺は狩られる側でもあるがな」
「でも、クロウさんは――
“死を愚弄しない人”です」
その言葉は、
胸の奥を刺す。
馬車の外を、
牧草地が流れていく。
「聖国家では、
ネクロマンサーは“悪魔”扱いです」
リリアが言う。
「魂を縛る存在。
死を穢す存在。
……救いようのない存在だって」
「間違ってはいない」
俺は静かに答える。
「魂を縛ること自体が、
罪なのは事実だ」
自分の胸を締め付けながら。
「それでも俺は、
迷う魂をそのままにしておけない」
馬車が揺れる。
「聖国家に着いたら、
俺は“巡礼の聖者”を名乗る」
「私は?」
「“護衛兼、祈祷師”だ」
リリアは小さく笑う。
「……本当に、
それらしくなってきましたね」
「外見だけだ」
俺は窓の外を見つめる。
「中身は、
相変わらず死の側だ」
遠くに、
白い城壁が見え始める。
聖なる国。
神を掲げる国家。
そして――
死体の行き先。
偽りの聖者と、
本物の聖魔術使いが、
同じ馬車に揺られている。
この旅が、
信仰と罪の境界を暴くことになると、
まだ誰も知らない。




