002
街を離れて、三日が経った。
舗装の荒れた街道を歩きながら、俺とリリアは北を目指している。
次の目的地は――
灰境の街・ヴァルグレイ。
かつて鉱山で栄え、今は死者の噂が絶えない街だ。
ネクロマンサーが潜んでいる可能性が高い。
そして、俺の“探し物”に繋がる情報もある。
焚き火の前で、リリアが干し肉を差し出してきた。
「……はい。半分こです」
「気を遣うな。自分の分を食え」
「でも、クロウさん、あまり食べないじゃないですか」
見抜かれている。
余計なことを言わず、肉を受け取る。
「旅って、慣れてるんですか?」
「……嫌でもな」
「ずっと一人だったんですか?」
答えないでいると、彼女は慌てて手を振った。
「あ、無理に答えなくていいです!
ただ……ちょっと気になっただけで……」
静かな夜の中で、彼女の声だけがやけに柔らかく響く。
――こういう距離感は、苦手だ。
翌日、街道で倒れた野犬の死体を見つけた。
リリアは視線を逸らしたが、俺は足を止める。
死の残滓が、微かに漂っていた。
「……ネクロマンサーの痕跡だ」
「ここにも……?」
「ああ。最近だ」
リリアの表情が、少しだけ曇る。
旅の途中、野営地で小さな村に立ち寄った。
だが、村人たちは俺を見ると露骨に距離を取った。
ひそひそと囁く声。
「……あいつ、黒い外套だぞ」
「ネクロマンサーじゃないか?」
「関わるな……」
リリアが悔しそうに拳を握る。
「どうして……何もしてないのに……」
「していなくても、罪人扱いだ」
「それって……おかしいです」
俺は笑った。
「この国の“常識”だ」
村を出た後、リリアはぽつりと零す。
「私は……クロウさんを、怖いと思えません」
胸の奥が、僅かに揺れた。
「だから……もしよければ……
しばらく一緒に旅させてください」
拒む理由はある。
だが――拒む気力はなかった。
「……好きにしろ」
その言葉に、彼女は小さく笑った。
夜、焚き火のそばで眠りにつく前、
俺は影の中に浮かぶ“気配”を感じていた。
剣を構える父。
槍を携える母。
――二人の死体を、俺はまだ使い続けている。
リリアは、それを知らない。
知らないほうがいい。
だが、この旅が続けば、
いずれ知ることになる。
翌朝、遠くの森から、
**歪んだ“死の気配”**が流れてきた。
人工的で、雑で、悪意に満ちた気配。
――同業者の匂い。
俺は、無意識に足を止めた。
「……来たか」
リリアが不安そうにこちらを見る。
「どうしました?」
俺は、森の奥を睨む。
「ヴァルグレイに行く前に……
“掃除”が必要になりそうだ」




