019
スラムでの休養を終えた俺たちは、
街中で聞き込みを続けていた。
死体が消える――
その噂の裏を取るためだ。
「棺桶が、夜に運ばれていくのを見た」
酒臭い商人がそう言った。
「埋葬じゃないのか?」
「違う。
数が多すぎるし、
どれも“新しい”」
「どこへ?」
「……国境の方角だ」
声を落とす。
「隣の国へ向かってた」
リリアが小さく息を吸った。
「隣って……
聖国家セルマ、ですよね」
聖職者が国を治め、
神の名のもとに裁きを下す国。
ネクロマンスを最大の禁忌としている場所。
「皮肉な話だな」
俺は低く言う。
「死を穢れと呼ぶ国に、
死体が流れている」
次に話を聞いたのは、
国境警備をしていたという元兵士だった。
「検問は、素通りさせてた」
「なぜだ?」
「聖印付きの通行証を持ってたからだ」
「誰の?」
「聖教会の印だ」
リリアの眉がわずかに寄る。
「……教会が、死体を?」
「表向きは“慰霊と浄化のための移送”って話だったがな」
俺の胸の奥が冷たくなる。
「慰霊なら、
この街でやればいい」
俺は呟く。
「わざわざ国境を越える理由がない」
「つまり……
“別の目的”があるってことですね」
リリアが静かに続ける。
「実験か」
「兵器か」
「あるいは――
魂の利用か」
口にした瞬間、
嫌悪が込み上げた。
俺は歯を噛みしめる。
「死者は、資源じゃない」
その言葉は、
同時に自分自身を刺す。
「……聖国家が関わっているなら、
簡単な話じゃなさそうですね」
リリアが言う。
「簡単である必要はない」
俺は歩き出す。
「死を弄ぶ連中がいるなら、
それが誰であれ――
辿り着くだけだ」
夕暮れの街で、
俺たちは進路を定める。
「次は国境か?」
「ええ」
リリアが頷く。
「死体の行き先を、
確かめに行きましょう。
クロウさん」
聖なる国。
神を掲げる国家。
そして、消えた死者たち。
嫌な予感だけが、
確信に近づいていく。




