018
体の調子が少し戻った頃、
俺たちは街の中心部へ向かった。
表通りは、スラムよりはマシだが、
決して裕福とは言えない。
「最近、妙な噂はありますか」
リリアが露店の店主に声をかける。
「死体が消える、って話なら聞くがね」
「ネクロマンサー絡みですか?」
「さあな……。
だが、ろくな話じゃない」
十分な答えは得られなかった。
だが、死の匂いが近づいている感覚はある。
宿へ戻る途中、
リリアがぽつりと尋ねてきた。
「クロウさん。
どうしてネクロマンサーって……生まれるんですか?」
答えたくない質問だった。
だが、嘘もつきたくなかった。
「歪んだ精神が、引き金になる」
淡々と告げる。
「生まれつき狂っている者もいる。
あるいは――
環境に壊されて、そうなる者もいる」
「じゃあ……
クロウさんは……」
何も答えなかった。
歩きながら、続ける。
「ネクロマンスは、死者を操る術じゃない。
魂を“抑留”する術だ」
「抑留……?」
「魂をこの世に縛りつける。
本来行くべき場所へ行かせず、
迷わせ、苦しませ続ける」
リリアの表情が曇る。
「……そんなの、あんまりです」
「だから歪んでいないと扱えない」
静かに言う。
「まともな精神なら、
あんなことは“耐えられない”」
言葉を続けながら、
胸の奥が軋む。
「俺も同じだ」
声が、わずかに低くなる。
「魂を縛っている。
死後も、自由にさせていない」
リリアは黙って聞いている。
「……親を使っている」
具体的な名は出さない。
それでも意味は伝わる。
「死者を道具にしている」
吐き捨てるように言う。
「だから、ネクロマンサーを嫌悪している。
――自分も含めて」
しばらく沈黙が続いたあと、
リリアが小さく言った。
「でも……
クロウさんの魔術は、
誰かを苦しめるためのものじゃないです」
「結果は同じだ」
「違います」
珍しく、はっきりした声だった。
「死者を縛る人と、
死者を守ろうとする人は……違います」
「……甘いな」
俺は視線を逸らす。
「甘くてもいいです。
それでも、私はそう思います」
通りの奥で、
子どもたちの笑い声が聞こえた。
俺は空を見上げる。
「……俺は、
まともな人間じゃない」
小さく呟く。
「でも、
死を愚弄する連中だけは許さない」
魂を抑留するという罪。
自分自身への嫌悪。
それでも、歩みは止めない。
歪んだ術を使う歪んだ人間が、
歪みを狩る。
それが、
俺の選んだ生き方だった。




