011
森は、静かすぎた。
鳥の声も、
獣の気配も、
死体すら見当たらない。
――おかしい。
情報は確かだったはずだ。
死体が動いたという噂も、
骨だけが残ったという話も。
だが、現場には何もない。
「……気配が、消えています」
リリアが低く言う。
「いや……
“消えた”んじゃない」
俺は地面を見つめる。
「移動した」
ヴァルグレイへ戻る道すがら、
胸の奥がじわじわと冷えていくのを感じていた。
死の縁が、近い。
森ではない。
街の中だ。
門をくぐった瞬間、
嫌な視線が増えた気がした。
通りを歩く人々の顔が、
どこか強張っている。
「最近、夜に人が消えるらしい」
「骨だけ残っていたって……」
「外じゃない……街の中だ」
噂は、
森よりも近い場所を指していた。
「……完全に、狩り場を変えたみたいですね」
リリアが小さく呟く。
「狩り場じゃない」
俺は言う。
「巣だ」
街そのものを、
死の拠点にしている。
酒場で再び情報を集める。
「ここ数日で消えた人間は?」
店主は顔を曇らせる。
「……三人。
鉱夫と、孤児と、門番だ」
「共通点は?」
「ねえよ……
ただ、夜に消えた」
――無作為。
だからこそ、悪質だ。
外に出ると、
リリアが街路を見回す。
「……さっきより、空気が重いです」
「ああ。
死の匂いが、街全体に染み始めている」
ネクロマンスの“縁”が、
わずかに震えた。
父の剣が、
静かに鳴る。
母の槍の気配が、
俺の背後で揺れた。
――敵は、近い。
通りの裏手で、
一人の子どもが座り込んでいた。
「……お兄ちゃん、
昨夜から帰ってこないの」
リリアがしゃがみ込み、
優しく声をかける。
「どこで最後に見たの?」
「……この街の中。
広場の近く」
俺の視線が、
街の中心部へ向かう。
「森じゃない……
街のど真ん中だ」
リリアの声に、緊張が滲む。
「そんな……
普通の人たちの中で……?」
「だからこそ、見つからない」
敵は、
**“人混みに紛れて狩る”**タイプだ。
夕暮れの広場に立つと、
空気がひどく淀んでいた。
笑い声の裏側で、
かすかな腐臭が漂っている。
見えない死が、
確実に近づいている。
「……クロウさん」
リリアが、小さく息を吸う。
「今回の敵……
嫌な感じがします」
「ああ」
俺は答える。
「これは、街を食い物にするネクロマンサーだ」
狂気か。
それとも、計算か。
どちらにせよ、
放置すれば被害は拡大する。
夜の帳が下りる。
ヴァルグレイの灯りが、
ひとつずつ灯っていく。
その下で、
次の死が、すぐそこまで来ている。




